観る将さんは語りたい

すっかり観る将になってしまった、元指す将の将棋観戦記録です

第 82 期順位戦総括

第 82 期順位戦総括

先日、82 期順位戦が終わったので、昨年同様に総括を書きたいと思う

A 級

A 級は前の記事で書いたように誰が挑戦者になって、誰が落ちるのか分からない状況で最終戦を迎えたが、最終的に豊島将之九段が挑戦者に名乗りを挙げた。斎藤慎八段と広瀬九段以外に勝利しての挑戦なので、文句なしと言える。

現状、藤井聡太八冠をタイトル戦でフルセット戦った経験があるのは豊島九段だけなので、今度の名人戦ではどのような戦いになるのか非常に楽しみである。藤井八冠は恐ろしい速度で成長中なので、豊島九段がどう抗うかというのが注目ポイントになる。ここ最近の将棋を見る限り、豊島九段なりに色々とフォームチェンジをしている。序中盤は、AI 研究によりほぼ同列に戦えるようになってきた。そうなると、中盤から終盤に掛けてどれだけ研究するかという形になっていて、ここでリードを取る戦略を多くのプロ棋士が取っている。研究勝負のぶつけ合いはここ三十年では当たり前の戦い方になってきたが、その深さが年々深まっている。現状、一番深く潜っているのが藤井八冠か永瀬九段だが、豊島九段も密かに潜っているに違いない。それが名人戦で公開されると思うので、豊島九段の懐刀がどこまで藤井八冠に突き刺さるのか楽しみにしている。

一方降級になったのは、斎藤慎八段広瀬九段。二人共近年の名人挑戦者だっただけに、リーグが始まった時には全く想像していなかった。しかし、今期の A 級順位戦は大混戦だった。実力者の二人も黒星を重ね、最終局も勝てなかった。誰も文句のない成績といった所か。二人共タイトル経験者なので、B1 に落ちたとしてもまた戻ってくると思う。

B 級 1 組

B 級 1 組は千田八段増田八段が 九勝三敗という好成績で昇級を決めた。

千田八段は意外だなというのが僕自身の正直な感想である。先日結婚したこともあり、そのパワーも後押しする結果になったか。千田八段が A 級で通用するかどうかという疑問に関しては YES と応える事が出来る。今いる A 級メンバーの中で、千田八段の棋力が劣っているとは思っていない。きっと、A 級でも暴れてくれるだろう。

もう一人の昇級者増田八段は、まっすーの愛称で将棋ファンたちからも愛されている棋士の一人だ。かの森下九段の弟子であり、過激な発言からデビュー当時から注目されていた。その才能は折り紙付き。A 級八段はいつなってもおかしくなかった棋士だ。B 級 2 組からの連続昇級、B 級 1 組一期抜けは流石と言える。実力的に A 級をかき回してくれるに違いない。

一方の降級対象は、屋敷九段木村九段横山七段の三人。木村九段は出戻り、横山七段も三期滞在からの降級で、悔しい思いをしているに違いない。そして、実力者屋敷九段の降級も寂しさを感じさせる。

ちなみに、今期の B1 は五勝七敗が三人いて、順位差で降級対象になったという感じだ。順位戦は蓄積系のランキング戦なので、前年、前々年の成績がボディーブローのように効いてくる。ポスト羽生世代も、徐々に落ち始めていて、時代が動いているのを感じられる。今期踏ん張ったが、山崎八段、三浦九段もそろそろ B1 が怪しくなってきたか。来期の残留争いも見ものである。

B 級 2 組

B 級 2 組からは、大石七段高見七段石井六段の三人が昇級する事になった。この三人の中だと、高見七段が叡王を持っていた事もあり、頭一つ抜けている印象がある。大石七段も石井六段もいわゆる地味強棋士なので、B1 に上がる実力は十分にあったと言える。ただ、この二人がいきなり A 級に上がれるとは思っていない。何期か B1 で揉まれて上がる、そんなイメージがある。一方のたかみー事高見七段は、一期抜けを期待出来る才能を感じている。研究勝負よりも、地力勝負に強いと僕は分析している。出たとこ勝負感が強いが、きっと B1 でも爪痕を残してくれると期待している。

一方、今期は大量降級が生まれ、阿部九段中村修九段畠山鎮八段飯島八段井上九段の五人が降級する事になった。いぶし銀の棋士が落ちていくという感じで、B 級 2 組もだんだんと顔ぶれが変わっている。来期以降また羽生世代やポスト羽生世代がこの B 級 2 組に増えていく、そんなイメージがある。

余談ではあるのだが、今回青島六段が頭ハネを食らっており、非常に惜しかった。そして、谷川九段がまさかの次点の次点という事で、今期はかなり好成績だった。勝ち星をもう一つ積み上げることが出来たら昇級の可能性もあっただけに、流石の永世名人という感じだ。深浦九段も同成績だが、最後の二連敗が色々と響いた。ベテランの二人が大健闘した、そういう期だったと言える。

C 級 1 組

C 級 1 組は事前予想通り、服部六段古賀六段伊藤匠七段がそれぞれ昇級した。 服部六段は傷なしの昇級という事で、文句なしの好成績を収めている。今が一番成長している時で、来期も B 級 2 組で好成績を期待する事が出来る。そして、古賀六段も九勝一敗という素晴らしい成績で昇級を決めた。三段リーグの次点二回からフリークラス →C 級 2 組 →C 級 1 組 →B 級 2 組という昇級成績は前人未到。素晴らしい記録であり、三段リーグからの別昇級ルートの開拓者という感じだ。この勢いを保ったまま、昇級して欲しいというのが正直な所。今の所、他の棋戦では中々良い記録を残せていないが、今回の昇級を糧にして、頑張って欲しい。

そして、序盤早々に二敗をした伊藤匠七段で、今期昇級は難しいと思われていたが、蓋を開けてみれば、最後は順位差で勝ち上がるという形になった。やっぱり、伊藤匠七段は実力もあるが、勝ち上がれる星を持っていると言える。都成七段を頭ハネしての昇級は、昨年頭ハネを食らった身としては色々と感じるものがあるだろう。 すでに、タイトル挑戦を二回行っていて、藤井八冠がいなければ、間違いなく次世代のエースとなっていたに違いない棋士である。来期の B 級 2 組の一期抜けの可能性が非常に高い棋士である。来期も伊藤匠七段の活躍を楽しみにしている。

C 級 1 組からの降級は高橋九段日浦八段。高橋九段は最近段々と勝てなくなっていて、これが衰えか……という感じだ。タイトル経験者であり、今期も三枚堂七段に一発入れているので、ワンチャンスあればまだまだ戦える。最も、長期間好調を維持するのは難しくなっているのだろう……。

一方の日浦八段は羽生キラーと呼ばれていた時代が懐かしい。彼も一癖も二癖もある棋士だが、成績はそこまでふるわなくなった。魔界と化している C 級 2 組ではきっと厳しい戦いを強いられるだろう。

C 級 2 組

C 級 2 組は、当初の予想通り富田五段高田五段藤本五段が昇級する事になった。四段全員が昇級というのは中々珍しい記録の一つだと言える。それだけ、新人四段が強いということの証左と言える。この三人のうち、一番注目されているのは藤本渚五段だろう。今期の高勝率は素晴らしい記録で、下手したら中原名人の記録を越えそうになっていたので、今後も注目される棋士になったと言える。ちなみに、藤本五段の棋風はいわゆる「老獪な将棋」で、非常に昭和の将棋の匂いが漂っている。一番若手が老獪とかどういう事なんだよ思うのだが、いわゆる AI 将棋のラーニングにより、若くても重厚な将棋を指せるようになっているのかもしれない。高田五段も藤井聡太八冠と同い年という事で、彼も将来藤井世代を形成する棋士になるかもしれない。いや、流石にそれは期待しすぎだろうか。

一方降級になったのは竹内五段、長沼八段、青野九段の三人。竹内五段は体調不良による成績不振なので、まずは体調を取り戻してまた順位戦に戻ってきて欲しい。長沼八段は年齢的にそろそろ……という感じだったが、ついに降級。C1 に上がってそこを突き抜けられなかったのは、本人としても思うところがあるだろう。青野九段は自分が将棋にのめり込み始めた時に A 級だった先生なだけに、C 級 2 組降級に伴う引退には本当に寂しさを感じる。青野流という横歩取りを終わらせた戦法を確立させた記録もあり、将棋史に残る先生である事は間違いない。青野先生、本当にお疲れ様でした。

三段リーグ

地獄の三段リーグを駆け抜けたのは、山川泰熙新四段と高橋佑二郎新四段の二人。二十五歳と二十四歳という高年齢から、二人共苦労人にである事が伺いしれる。やはり、この年齢前後は層が厚いと改めて感じさせる。 期待の高かった山下数毅三段は十一勝七敗という事で、あまり振るわなかった。あと、個人的に応援している齊藤優希三段は前半二勝六敗という出だしで終わったかと思いきや、最後は勝ち星を積み上げ、十一勝七敗という記録を残し、勝ち越しを決めた。精神力はもちろん、棋力が凄い。来期こそは、齋藤三段には上がって欲しいと思っている。 三段リーグを勝ち上がっても、魔界と化している C 級 2 組は大変だと思うが……。

来期の見どころ

という事で、82 期順位戦を振り返ってみると、実力者が這い上がるという構造はそのままに、より顕著になったという印象だ。逆に降級する人たちは意外な顔ぶれが多かったという印象。順位戦は過酷になっているが、特に C 級 2 組に実力者がたまり続けるという状況がここ十年続いていて、魔界と化している。そのため、来期の C 級 2 組は全く予想が出来なくなっている。実力者同士でのつぶしあいが常態化していて、組み合わせ次第という感じになっている。今年も十月になるまでは、予想すら出来ない戦いになるだろう。

それ以外に関しては、連続昇級者に注目できるだろうか。C 級 2 組から上がった高田五段、藤本五段。C 級 1 組から上がった服部六段、古賀六段、伊藤匠七段。B 級 2 組から上がった高見七段。この辺が連続昇級を期待出来る才能の持ち主だと勝手に考えている。彼らの活躍にぜひ注目して欲しい。

その前に、四月から行われる藤井聡太名人対豊島将之九段の名人戦も非常に楽しみである。絶対王者である藤井名人に豊島九段がどう戦うかは注目したい。居飛車 VS 居飛車に加え、居飛車 VS 振り飛車の戦いも期待出来る。きっと、見ている人たちを楽しませる将棋が指されるに違いない。死闘になるか、蹂躙になるか。観る将さんは名人を楽しみにしています。

82 期順位戦 A 級リーグが大変なことになっている

82 期順位戦 A 級リーグが大変なことになっている

先日、順位戦の予想を書いたのだが、その予想を遥かに超える大混戦状態になった。

まず、昨日行われた A 級 8 回戦の結果は下記の通り

  • 佐藤 天彦九段 ○-● 菅井 竜也八段
  • 広瀬 章人九段 ○-● 稲葉 陽八段
  • 中村 太地八段 ○-● 渡辺 明九段
  • 佐々木 勇気八段 ●-○ 永瀬 拓矢九段
  • 豊島 将之九段 ●-○ 斎藤 慎太郎八段

豊島九段と菅井八段と渡辺九段が負けたことにより、挑戦者争いが熾烈なものになった。 順位に関しては

  • 豊島九段
  • 永瀬九段
  • 菅井八段
  • 渡辺九段
  • 佐藤天九段
  • 中村太八段
  • 広瀬九段
  • 斎藤慎八段
  • 稲葉八段
  • 佐々木勇八段

という順になった。 6 勝 2 敗から 3 勝 5 敗までがひしめき合う混戦模様は変わらずだが、ここから最終的に挑戦者争いと降級争いがはっきりと分かるようになった。

挑戦者争い

挑戦者争いに加わることが出来るのは

  • 豊島九段
  • 永瀬九段
  • 菅井八段

の 3 人。 以下、条件。

豊島九段

終戦に勝てば挑戦、負けたらプレーオフ。もちろん、プレーオフで勝てば、挑戦。比較的有利な順位だが、昨日の将棋の負け方はかなりダメージの大きいものだったと言える。将棋の内容が良くないのが懸念材料。

永瀬九段

豊島九段が負けて、自身が勝てばプレーオフに。それ以外は駄目。 永瀬九段としてはとにかく最終戦に勝つしかない。そして、後は豊島九段が負けることを祈るのみ。

菅井八段

終戦勝てばプレーオフ。対戦相手の豊島九段を降せば、挑戦の目が見える。しかし、王将戦藤井聡太八冠にバキバキに心を折られているので、かなり厳しいか。豊島九段も調子が悪いので、最終戦泥仕合になりそうだ。

降級争い

挑戦者争いよりも、降級争いはさらに複雑だ。 降級候補は 6 人。

  • 佐藤天九段
  • 中村太八段
  • 広瀬九段
  • 斎藤慎八段
  • 稲葉八段
  • 佐々木勇八段

まさかこんなに降級候補が出てくるとは今までの順位戦では想像できないくらいの星争いになっている。

佐藤天九段

終戦負けて、なおかつ中村太八段、広瀬九段が勝っていたら降級。 負けたとしても、落ちる確率はかなり低いと言える。 最終戦の稲葉八段を負かせば良いが、稲葉八段も死にものぐるいで抵抗してくると考えられるので、死闘になるに違いない。

中村太八段

終戦負けて、なおかつ広瀬、稲葉八段が勝っていたら降級。 負けたとしても、ギリギリ首の皮一枚繋がる可能性がある。 渡辺九段に勝った事がここで生きてきてる。 もちろん、最終戦勝てば文句なしに残留。 もっとも、最終戦は永瀬九段なので、簡単には勝てないだろう。

広瀬九段

終戦負けて、なおかつ稲葉八段が勝っていたら降級。 負けたとしても、稲葉八段の結果次第で首の皮が繋がる可能性がある。 2 戦前までは降級確定とまで言われていたが、ここに来ての連勝はやはり地力がある。 最終戦は、昇級/降級に関係ない渡辺明九段が対戦相手なので、広瀬九段が勝つ可能性が高いと踏んでいる。 最近、渡辺九段のモチベーションが下がっているのも、追い風になるか。

斎藤慎八段

終戦負けたら即降級。後が無いと言える。とにかく勝てば良い。 斎藤慎八段も降級候補から、自力で生き残れる道が出たのは流石と言える。 前期の順位が良かったのもここで効いてくる。

稲葉八段

終戦負けたら即降級。色々な人の降級に絡んでいるので、佐藤天九段との最終戦は見ものである。 昨日の対戦では、広瀬九段の底力に押されてしまった形だ。

佐々木勇八段

終戦負けたら即降級。 永瀬戦では、地力の差がもろに出てしまっていた。永瀬九段と佐々木勇気八段、どうして差がついたのか…慢心、環境の違い。 冗談はともかく、勝てば自力残留の目があるので、佐々木勇気八段も決して弱くないという事が分かる。単に相手が悪かったとしか……。 最終戦の斎藤慎八段も負けたら即降級なので、ここも死闘になると言えよう。

総括

終戦

  • 豊島 将之九段-菅井 竜也八段
  • 中村 太地八段-永瀬 拓矢九段
  • 広瀬 章人九段-渡辺 明九段
  • 佐藤 天彦九段-稲葉 陽八段
  • 佐々木 勇気八段-斎藤 慎太郎八段

となっている。 どの戦いも挑戦、降級に関わりのある戦いになるので、見どころしかない。 久々に、将棋界の一番長い日が熱い日になる。

第 82 期順位戦予想

第 82 期順位戦予想

やや時期は早いが、82期順位戦の予想を書いていこうと思う。

A級

A級順位戦は混戦状態が続いている。挑戦者争いは4人に絞られた。

現状、豊島九段が1敗でリードしているが、実力伯仲なので、先が読めない状況だ。 最終戦の菅井八段との直接対決前に決めておきたいが、その菅井八段は2敗で背中をぴたりとマークしているので、そう簡単には振り切れないだろう。 最も、現在王将戦藤井聡太八冠に連敗してしまったので、精神的なダメージはかなり溜まっていると思う。 次戦の佐藤天彦戦は、注目だ。

そして、その菅井八段に先日土をつけた渡辺明九段も挑戦候補に名前が上がってきた。 早々と黒星を重ねたので、今年は駄目かなと思いきや、きっちりと勝ち星を稼いでいくのが渡辺九段らしい。 手堅い終盤力に加え、精緻な序中盤という新たな武器を身に着けて、隙が無くなっている。 最も、他の棋士もそのスタイルを身につけているので、将棋界全体として、似た将棋が増えているのが、ちょっとだけ残念である。

その渡辺明九段のすぐ後ろには永瀬九段。 先日まで成績でリードしていたが、稲葉九段に負けたことにより、4位に後退。 挑戦チャンスは限りなく低くなってしまったが、チャンスゼロでは無いので、その可能性のために永瀬九段は全力を尽くすだろう。

一方、降級候補に関してだが、これも混沌を極めている。

この二人が5敗しているという事実に、びっくりしている。 もっとも、その上も

も4敗なので、どれだけ混戦模様であるかが容易に理解出来ると思う。 次戦の広瀬-稲葉戦は、負けたほうが降級決定or降級候補になるので、非常に興味深い勝負になるに違いない。 天彦九段も順位が悪いため、1敗すると途端に降級候補になるのが厳しい。 勇気八段、中村八段も順位が悪いため、1敗が重くのしかかる位置にいる。

今期のA級の台風の目は中村太地八段であり、全敗すると揶揄されていたが、蓋を開けてみると3勝4敗と善戦しており、特に斎藤慎太郎八段に黒星を付けたのは大きい。 残りは渡辺九段、永瀬九段の二戦なので、レーティング的に勝つのが難しい相手であるが、何かしてくれそうな雰囲気を漂わせているのは凄い。

いずれにせよ、誰が落ちて、誰が挑戦するのか読めない接戦になっている。 今期のA級順位戦は過去最高レベルで実力が拮抗していると言える。

自分の予想としては、豊島九段が挑戦&名人奪取、降級は稲葉八段斎藤八段と予想する。

豊島九段が名人挑戦になれば、藤井聡太八冠との壮絶な死闘が見れるだろう。

B級1組

B級1組は増田康宏七段と千田翔太七段が昇級候補として一歩リードしている状況だ。 増田七段は対大橋七段戦に勝っていたら昇級確定だっただけに、ここを落としてしまったのはもったいない。 とはいえ、最終戦を勝てば文句なしの昇級なので、3/7の屋敷戦で勝って昇級を決めて欲しいと思う。

千田翔太七段はあと2勝積み上げなければいけないので相当に厳しい。 1敗すると、頭ハネを食らう可能性があるので、なんとか勝ち星を積み上げたい。 次戦の屋敷戦は鬼勝負になると思う。

二人の後ろを追うのは糸谷八段と大橋七段。 大橋七段は、C級2組時代が長かったが、一旦上がったらトントン拍子に昇級してあっという間にB級1組に来てしまった。 流石に、1期抜けは出来ないかと思いきや、いい位置にまで上がってきた。 やはり、実力がある棋士だなと感じられる。

糸谷八段は、即出戻りの可能性があるのが大きい。 残り2勝を積み重ねる事が出来たならば、チャンスはある。 もっとも、羽生九段、佐藤康光九段と連続レジェンド対決なので、簡単では無いだろう。

一方降級に関しては、横山七段と木村九段が決まっており、最後の1枠を6敗の三浦九段と5敗勢が争っている。 順位的に怪しいのは屋敷九段、山崎八段か。

という事で、昇級候補には増田七段千田七段を挙げておく。 降級候補には関しては、横山七段、木村九段に加えて三浦九段と書いておく。 三浦九段と屋敷九段のどちらが残れるかというと、恐らく屋敷九段の方が踏ん張る気がしている。 三浦九段は、残りの対戦相手が山崎八段と羽生九段であり、今の羽生九段に白星をあげるのは相当に難しい。 それほど、羽生九段は充実している。順位戦では連敗しているが、内容は悪くなかったので、最終二戦は連勝して終わる、そんな雰囲気を感じ取っている。

B級2組

B級2組も混戦模様だが、大石七段深浦九段が1敗でややリード。 以下、高見七段、石井六段、青嶋六段が続いている。

大石七段は地味強棋士の代表と言っていいほど地味に強い。最終戦が、藤井猛九段と郷田九段という羽生世代との連戦なので、簡単には昇級出来ないと思う。藤井猛九段から白星を上げる可能性がやや高いが、郷田九段は厳しいだろう。 ただ、順位的に有利なので、1勝1敗ならば昇級チャンスありと言える。

深浦九段は連敗しない限り昇級出来ると思う。残りは丸山九段と佐々木慎七段なので、十分に勝ち星を見込むことが出来る。

残りの1枠に冠しては、順位的に高見七段が有利。 よほどの事がない限りここは確定だと思って良い。 高見七段も佐々木慎七段との対戦があるので、二人の戦いは見ものだ。 2/14の高見-佐々木慎戦は非常に興味深い戦いになると思う。

一方の降級に関してだが、降級点2が付きそうなのが、阿部九段、飯島八段、畠山鎮八段、中村九段、井上九段あたりが怪しい。 いわゆるちょっと前の中堅どころの棋士が降級するのは見ていて悲しいが、こうして新陳代謝が進むのが将棋界の良いところ。 今期のB級2組は大量降級もありうるカオスな状況になっている。

最も、結局誰がどれだけ負けるか次第なので、首の皮一枚で繋がるというのはよくある話なので、最後まで気が抜けない。

C級1組

C級1組は服部六段が頭一つリードしていて、続けて古賀五段が1敗で追いかけている。 そして、序盤で連敗していて今期は無理かと思われた伊藤匠七段が2敗勢のトップとして追いついてきた。

昇級に関しては伊藤匠七段が負けない限り、この三人でフィニッシュだと予想する。 残りの2敗勢は伊藤匠七段に頭ハネされる可能性が非常に高い。 昨年、伊藤匠七段は最後の最後で頭ハネを食らってしまったので、今回逆に大量の頭ハネを決める可能性が高いのは、勝負事の残酷さを浮き彫りにしていると言える。 ある意味非常に公平な勝負だと言えよう。

降級候補に関しては、少なく、日浦八段高橋道雄九段が降級しそうだ。 高橋道雄九段は、タイトル経験のある大ベテランであり、かなり耐久力のある残り方だったが、いよいよC2へという感じだ。 降級したとしても、フリークラス宣言せずに、最後の最後まで順位戦を指し続けて欲しいと願っている。

C級2組

佐々木大地七段が3敗目を上げてしまった事で、本命が消失したC級2組。 蓋を開けてみると、冨田四段高田四段藤本四段というフレッシュ(?)な三人が昇級候補に。 特に藤本渚四段は今年度の勝率ランキングで先日まで一位だっただけに、期待は大きい。なお、藤井聡太八冠が勝率ランキングトップに躍り出た模様。2024年1月27日現在、0.864というあの誰も越えられなかった中原名人の記録を大幅に塗り替える記録が出そうでヤバい。というか、ほとんどがタイトル戦のみでこの高勝率を叩き出しているのが偉業であり、異次元すぎてどこから突っ込めばいいか分からない。謎すぎる。

閑話休題

いずれにせよ、上記の3人を昇級候補として挙げておきたい。 降級に関しては、青野九段竹内五段長沼八段が候補に挙がっている。竹内五段はまだまだ若いので、もう少し踏ん張って欲しい気持ちもあるが、果たして……。

青野九段は、僕が将棋を見始めた時はA級でバリバリ活躍していた棋士なだけに、ついにこの時が来たかという気持ちでいっぱいだ。 最後まで順位戦を戦ってくれてありがとうございます。

また降級候補では無いが、瀬川六段は今の順位のままだと降級点2になるので、来季以降が危なくなる。 アマチュアからプロになるという道を切り開いた先駆者だけに、踏ん張って欲しい所。

総括

今期は、本当に誰が本命なのか全く読めない順位戦になっている。 ようやくちらほらと昇級/降級の候補が見えるようになり、この記事を書いているが来月の勝負が終わるまで、結論が出せない状況になっている。 藤井聡太八冠というとんでもないスターが順位戦を荒らした後に残っていたのは、大戦国時代という混乱だった。 それだけ、棋士たちの多くが実力伯仲になったというのが興味深い。 若手も中堅もベテラン勢も誰もが切磋琢磨する、将棋界はこれからが面白い、いや、現在進行系で一番おもしろい時期だと言える。

21歳の挑戦者、棋王戦で伊藤匠七段が挑戦

棋王戦の挑戦者が伊藤匠七段に

数日前のニュースではあるが、第49期棋王戦の挑戦者が伊藤匠七段に決まった。 挑戦者決勝トーナメントを見ると分かる通り、敗者復活戦からの連勝での勝ち上がり。これは中々凄い記録である。

21歳の挑戦者

21歳でタイトル挑戦2回というのは、とんでもない記録であり、誰がどう見ても天才の枠になるのだが、藤井聡太八冠というあまりにもとてつもない記録の持ち主が同世代にいるので、記録が霞んでしまうのは、あまりにも可哀想だ……。

それにしても、竜王戦ドリームに続き、棋王戦でも勝ち上がっている所からすると、同世代の最強がいると、非常に強い影響を受けることが分かる。 藤井聡太世代はまだ形成されるほど層が厚くないが、その内、この世代が華々しく活躍するのではないだろうかという期待をどうしてもしてしまう。

世代について

古くはチャイルドブランドや羽生世代といった強力な若手が出てくるのが将棋界の常であったが、それらを引っ張っているのは、強力な先駆者(一強)が出てくることが前提で、谷川、羽生、そして藤井聡太という先駆者が世代を作る原動力になったと言えよう。

本来なら、羽生-藤井聡太の間に渡辺世代とも呼ぶべき世代が存在していたはずだが、その上の世代である羽生世代の寿命が長すぎて、ついにぞ渡辺世代と呼ばれる世代は生まれなかった。

このブログを古くから読んでいる人は、僕が勝手に佐々木勇気世代と呼んだ世代が存在している事も知っているだろうが、これはあまりにも知名度が低く、誰も知らないし、今後も広まらないだろうと思う。

世代と呼ばれるような厚い層が生まれるか生まれないかの条件は色々あると思うが、羽生世代が登場した時と似たような雰囲気を僕は感じている。 羽生善治は当然強かったのだが、他にも同世代の強い棋士がたくさんいた。 羽生-森内-佐藤康光の三人がライバル関係として奮闘したように、藤井聡太、伊藤匠、そして誰かもう一人が名乗りを挙げて戦いに挑んでくる事をどうしても期待してしまう。

条件的には、2000年以降生まれの棋士で、藤井聡太八冠と伊藤匠七段を除くと

  • 横山 友紀 四段 2000年1月26日 23歳
  • 古賀 悠聖 五段 2001年1月1日 22歳
  • 森本 才跳 四段 2001年5月31日 22歳
  • 狩山 幹生 四段 2001年11月12日 22歳
  • 高田 明浩 四段 2002年6月20日 21歳
  • 上野 裕寿 四段 2003年5月5日 20歳
  • 藤本 渚 四段 2005年7月18日 18歳

この辺がその層を形成する可能性がある。 現在最年少棋士の藤本渚四段は、今年度勝率ランキングでトップ(35勝6敗-.854)を走っている。 他の棋士は目立った記録はないものの、例えば高田四段は、C2の昇級候補、古賀五段もC1の昇級候補となっており、これからどんどん伸びていくのが見て取れる。

現状一番伸びているのが藤本四段なので、もしかしたら最後の1ピースを埋めるのは彼なのかもしれない。

将来振り返ってこのブログを見直した時、ここに挙げていた誰かがタイトルを奪取していたとしても、そう驚くことは無いだろう。歴史は繰り返すのだから。

最後に

2023年の最後は、藤井聡太世代に想いを寄せる記事となった。 毎年、年末になるとゴリゴリ記事を書いている気がしているが、もう少しいいペースで記事を書いていければと思っている。

という事で、また来年もよろしくお願いします。 次の、順位戦昇級予想記事でまたお会いしましょう。

才能とは何か?自己認識とトレーニングの重要性

才能について

自分で言うのもなんだが、僕は割りと優秀な方だ。 ある程度の事は、トレーニングする事で改善させて、伸ばすことが出来る。 自分がどこで躓いているのか、どうやったらそれを克服できるのかというのを自分で良く分かっている方であり、独学で何もかもしのげてしまうという能力がある。 言うなれば、自分自身を知る、という事に関しては非常に才能がある方なのだろう。

僕自身が常日頃感じてる事なのだが、才能と呼ばれる物には色々な形があり、それを端的に評価することは非常に難しい。 現在は才能が無いように見える人でも、方向を少し変えてやるだけで才能が花開くという時がある。 要するに、才能が無い人間は一人もいないというのが、僕の持論だ。

天才について

そんな中で、その才能が飛び抜けている人たちがいる。将棋というゲームにおいては分かりやすい指標があり、天才を認識しやすい。大山、中原、谷川、羽生、渡辺明藤井聡太と時代を築いてきた棋士は皆、才能が飛び抜けている事を認識しやすい。

そういう人たちがいわゆる、天才と呼ばれる人たちである。 天才は努力をしないで才能があるように見せかけているが、実際はきちんと努力している。しかし、彼らにとって努力は努力ではない。冒頭で書いたように、自分自身を知っているからだろう。 自分の弱点や克服すべき点を認識出来る能力、自分の強みや伸ばすべき点を認識出来る能力、それらを適切にトレーニングし、伸ばしていく能力。これらを高水準で行える人たちを、我々凡人は「天才」と呼んでいる。

しかしながら、天才と呼ばれるその人たちの目線に立つと、彼らにとっては普通にできる事柄であり、自分たちは天才なのかどうか、あまり認識できていない傾向があると思う。 他人よりちょっとだけ出来るレベルぐらいの認識なのかもしれない。

僕は、僕自身に関してそういう認識を持っていて、色々とこなしている。 他人から見ると、僕は天才に見える時があるかもしれない。 しかしながら、それは天才たちの視点に立ったことがない幸せな人々たちの視線であり、僕にとっては時にそれが羨ましく感じる。

そこそここなせる人間からすると、他の人たちは努力不足に見えるし、天才たちは努力している人に見える。 自分の能力も鍛えて行けば無限に伸びると錯覚すらしている。 実際の所、伸びしろの限界は人それぞれであり、加齢に伴い伸びるどころか退化すらしていく。 それらを実感する時に、自分の普通さ加減に悲しみを感じる。

コンプレックスを乗り越えるために

こういう天才コンプレックスを抱えている人はそれなりに存在していると思う。 努力し続けられる天才を横目で見ている人、努力してもその領域にすら届かない人、見てる次元がそもそも違う人、見えない人。 これだけ多様性のある時代だからこそ、人間は様々な感情を抱くし、劣等感や優劣感を感じたり、感じなかったりする。

こういうコンプレックスを乗り越えるためには、自分で自分を認める必要がある。 等身大の自分を見つめるというのは、とても難しいことだが、それをしなければ進めない領域がある。

僕自身、将棋の終盤がとても苦手である。 とはいえ、3手詰めぐらいなら、1秒で解く自信はある。 将棋をかじった人ならば、5秒、初心者なら3分前後、トップアマやプロなら0秒。 トータルで見てみると、自分の現在地がどれだけ上にいるのかが分かる。 後は、1秒を0.5秒に、そして最後は0秒に。そういう思考回路を組み立てるトレーニングをし続ける必要がある。 これに関しては、詰将棋を地道に解いていくしかないと思う。 量を解けば、パターンを覚えるようになり、最終的に様々な形で詰み形が見えるようになってくる。 その領域に達したら、僕もようやく天才コンプレックスを克服出来るかもしれない。 最も、その領域に到達すると、また更に先が見えてしまい、ますますコンプレックスを深める可能性が高そうだ。

本命不在の第 82 期順位戦

本命不在の第 82 期順位戦

2023 年も残す所数日。 ぼちぼち順位戦の結果が出てきたので、その記録を綴っていきたいと思う。

A 級

傷ひとつなしでトップを駆け抜けているのは、豊島九段。それを 1 敗で追うのが菅井八段。 それ以外は基本的に団子状態。広瀬九段が最下位にいる事に違和感を感じるが、それだけ実力が拮抗しているのだろう。 誰がどれだけ勝って、どれだけ負けるかまだまだ何も見えない。 それくらい、順位予想が難しくなっている。

B 級 1 組

こちらは、増田七段が 1 敗でトップをひた走っている。負ける余裕が 1 個あるのは大分気楽ではあるが、それで緩むといきなり転落もあり得るので、最後まで気は抜けない。 野球で言う所のマジック 2 状態なので、ぜひとも、残りの二戦には勝ち抜いて欲しい。 最も、澤田七段と大橋七段に連勝というのは、相当に厳しいものだとは思うが。

上位勢の千田七段、糸谷八段、羽生九段、大橋七段に昇級の目がある。順位の関係上糸谷八段がやや有利か。今日の順位戦の結果次第で、この辺が変わると思う。

木村九段、横山七段は降級黄色信号が点っている。 ただ、二人共実力者なので、ここから巻き返す可能性は十二分にある。

B 級 2 組

B 級 2 組も混戦模様。 開幕五連勝していた戸部七段が二連敗して順位が目まぐるしく変わった。 現在トップは大石七段、深浦九段の一敗勢の二人。その後ろに、高見七段、戸部七段、谷川九段、石井六段、青嶋六段と続く。 誰が本命なのか全く分からず、昇級候補を絞ることが出来ない。 期待値的には、若手の高見七段、石井六段、青嶋六段あたりには上がって欲しい。しかし、ベテラン勢の強さは色褪せていないので、誰が昇級してもおかしくないと思う。

降級候補に関しては、下位勢に降級点持ちが固まっているので、今期は大量降級があるかもしれない。

C 級 1 組

傷なしなのは服部七段だけ。あとは団子状態。 上位勢の直接対決はほぼないため、順当に行けば、服部七段と 1 敗勢の斎藤明日斗五段と古賀五段が昇級となる。 斎藤-西田戦で西田五段が勝つと、順位の関係で斎藤五段の昇級の目が怪しくなる。 来年の 2/6 は C 級 1 組での鬼勝負になるかもしれない。

C 級 2 組

富田四段が負け、全勝が消え混戦状態に。現状は 1 敗勢が有利なものの実力が拮抗している今の状況では、上位陣でも崩れる可能性は十分に高い。 C 級 2 組も誰が上がるのか全く予想がつかない。 来年の 2 月になるまでは、結論を出せない状況が続きそうだ。

総括

本命として誰が上がるのか全く分からない状況になっている。 こんなにも混戦状態になった順位戦は始めてなのかもしれない。 藤井八冠の誕生により、順位戦を誰が勝ち抜くかの予想が立てにくくなったのは、意外な結果だと思っている。 AI 研究の導入により、若手もベテランも序中盤での差が開きにくくなり、地力勝負に持ち込めているが星がどうなるか分かりづらくさせているのかもしれない。 当然ながら、奨励会を勝ち抜いてきた棋士たちが弱いはずもなく、ましてや AI 無しでここまで闘ってきた棋士たちなのだから、地力の分厚さは半端ではない。

AI 導入により、将棋界の実力が跳ね上げられているのは間違いない。 第一人者である藤井八冠がそれを示している。 そして、彼を一人にしないために、才能をもった人たちが戦い続けている。 来年になったら、例のごとく昇級予想を書こうと思うのだが、果たして書くことが出来るのだろうか……。

藤井聡太八冠の誕生とこれからの将棋界が一番面白い

藤井聡太八冠誕生

【速報】将棋 王座戦 藤井七冠がタイトル奪取 史上初の八冠に

まずは、藤井聡太先生、八冠達成おめでとうございます。 文字通り、前人未到の地に到達した。思っていたよりも遅かったというのが正直な感想ではあるが、こんな偉業は今後見ることはそうそう出来ないと思う。

そして、敗れてしまった永瀬九段であるが、今回の王座戦を見るに、内容で言うならば三勝一敗。実質的には永瀬九段が防衛でもおかしくなった。 しかし、最後は指運が負けてしまった。そんな内容だった。 特に、第三局と第四局は、作戦勝ちで優勢を維持しながら、最後の最後で間違えての負けなので、ほぼ勝利を手に入れていたと言っても過言ではない。 少なくとも、研究勝負という点では完全に藤井聡太先生を上回っていた。それだけに、今回の失冠は、永瀬九段にとっては悔しくて仕方がない物だったと思う。

凡人が天才に挑む戦い

今回の勝負は最初から、凡人が天才に挑む戦いだった。永瀬九段は、どうしようもないくらい凡人だ。将棋のセンスに関しては欠片も無くて、努力だけで積み上げた物であり、凡人としての最高到達点に達している。 彼のその努力は並々ならぬ物であるし、それが全て無駄だとは言わない。むしろ、凡人が天才とここまで戦えるのかと可能性を魅せてくれた事に称賛を送りたい。

対する藤井聡太先生は、誰もが認める天才だ。手の一つ一つが強いが、とにかく終盤における形の見極めの早さ、読みの深さ、手の精度の高さ、そして選ばれるセンス、その全てが現代の最高レベルに達している。 天才ゆえの孤独とよく言われるが、現状は幸い(?)にして、コンピュータというさらなる”天才”が存在するお陰で、強い相手との勝負には事欠かない。

しかし、結局の所、外野である我々は血の通っていないコンピュータと人間との対局ではなく、血の通った人間同士の戦いにたまらなく惹かれてしまうのだ。 人間が指す手には血が通っていると表現されるが、要するに理性を超えた感性や感情がねじり込まれているという事だ。棋譜を並べる事で、その時の棋士の考えだけでなく、感情を読み取れるのが、人間対人間の戦いにしか無いもので、それを観る将たちは楽しんでいるのだ。

現代は、中継技術の発達により、実際に指している風景も観ることが出来るようになった。本当に凄い時代になった。少し古い時代だったら、この速報は新聞やラジオといった物で伝わっていた。ちょっと時代が進むとテレビで。そして今はインターネットを通じて、SNS を経由して、結果を簡単に手に入れられるようになった。

評価値を表示する事で、将棋が分からない素人でもどちらが勝っているかも、漠然と分かるようになった。 それでも尚、対戦している者たちにしか分からない勝負の揺らぎがあり、それが分かるのは、知識を積み上げた人たちの特権だと、僕は思っている。

先に書いたように、今回の王座戦、内容では永瀬九段の勝ちであり、諸手を挙げて八冠おめでとうと言えるような内容では無い。 それに関しては、対戦相手である藤井聡太先生が一番良くわかっていて、二番目に悔しがっているのは、もしかしたら藤井聡太先生その人なのかもしれない。

凡人が天才に挑む戦いは、今回は凡人が勝ったと言い切れる。 天才としのぎを削る事が出来るくらい、凡人も戦えるという事だ。

凡人の再起

永瀬九段が削ぎ落として来たものは多いと思う。そして、しばらくしたらまた何食わぬ顔で藤井八冠と VS を再開するだろう。 虎穴に入らずんば虎子を得ずの通り、勝つためには対戦相手の一番深いところまで潜る必要がある。 そして、それを臆すること無く出来るのは、現状、永瀬九段だけだろう。

藤井聡太八冠の牙城を崩す可能性が一番高いのは、永瀬九段だと感じさせるシリーズだった。 同時に、それ以外の棋士もメキメキと実力を付けているのも事実。 将棋界の全員が八冠誕生を喜びつつも、現状でいいとは誰もが思っていないはずだ。 今、将棋界の天才たちが称賛を送りつつも、懐の刃を研いでいるに違いない。

これからの将棋界

特に、若手の棋士藤井聡太先生を一人にしないために努力し研鑽している。 豊島九段も、今のままを良しとするような人ではない。羽生九段は、会長職をこなしつつも、勝負師としての顔が見え隠れしはじめている。唯一牙を研いでいないのは渡辺九段くらいか。

第一人者は、攻略方法が無いわけではない。かつての羽生先生や藤井猛先生が徹底的に研究され、攻略されたように、藤井聡太八冠も攻略対象として徹底的に研究されるだろう。 最後は地力勝負という形になれば、終盤が強い棋士たちが牙を剥くに違いない。 独創性の高さで未知の盤面へ導く序盤のアーティストたちの高等技術が見られるだろう。 そして、ねじり合いで僅かの差を決定的な差にしていく中盤の志士たちの戦いが間近に迫っている。

そう、将棋界はこれからが、”一番”面白い。