観る将さんは語りたい

すっかり観る将になってしまった、元指す将の将棋観戦記録です

暑い夏ーー熱いC級2組順位戦

順位戦の話

将棋ファンにとって、順位戦と言えばどのクラスをイメージするだろうか。 多くの人はA級をイメージするに違いない。 名人に直結するリーグ戦なので、注目度が高いのも当然だ。

昨日、渡辺明二冠が名人位を奪取し、三冠に復位した。 彼の実力からすると遅すぎるとも感じるが、ここ数年の調子の良さからすると取るべくして取ったタイトルとも言えるかもしれない。 なにはともあれ、おめでとうございます。

無敗勢

閑話休題話を戻して

今、C級2組が熱い。 第79期名人戦・順位戦 C級2組を見ると今回の混戦模様を窺い知ることが出来る。

トップを無敗で独走しているのは九人。

  • 佐々木大地五段
  • 大橋貴洸六段
  • 黒田尭之四段
  • 阿部光瑠六段
  • 本田奎五段
  • 石田直裕五段
  • 伊藤真吾五段
  • 渡辺和史四段
  • 服部慎一郎四段

四回戦で佐々木-大橋戦があるので、次回で、少なくとも1人は昇級争いから脱落する事になる。 連なっている名前を見ると、今調子の良い人たちが首位争いをしている事が分かる。 最近のC級2組は1敗が致命傷になるほどの激戦区になっているので、実力者でも中々昇段出来ないのが実情である。

佐々木大地五段は一昨年、去年と各棋戦で非常に好成績を上げてきている棋士なので、いつ上がってもおかしくない実力者である。フリークラスからの昇級組で、勝ち得の貪欲さは健在。1手1手をしっかりと時間いっぱい考えるタイプなので、凡ミスをしにくく、それが負けにくい将棋へと繋がっていると考えられる。今後の活躍にも大いに期待できる。

大橋貴洸六段は、対藤井戦において3連勝をしている事からその実力もかなりの人に知られている。藤井棋聖と同期で昇段した事から、色々とプレッシャーを感じる場面もあったのかもしれないが、それでも着実に勝利を積み上げているのは素晴らしい。

黒田尭之四段も、将棋倶楽部24で月間十傑連続32ヶ月という記録の持ち主なので、化け物じみた強さである。目立った戦績を残してはいないものの、その実力は折り紙付き。今期もどこまで暴れてくれるのか期待大である。

阿部光瑠六段は、電王戦で対コンピュータ相手に完璧な差し回しで圧倒した事から、多くの人の記憶に残っているだろう。間違いなく天才肌の棋士で、指し手を見ても本当にセンスの良さを感じる事が出来る。ただ、センスに頼り切った差し回しをすると時には足元を掬われてしまうこともあり、安定感が欠けているとも言える。順位戦もC2で燻るような器ではないと思うので、ぜひとも突破して欲しいところ。

本田奎五段は、いきなりタイトル戦挑戦者になるといった爪痕を残しているので、今後にも期待できる新人だ。歩の使い方がとにかく上手くて、負けた棋譜を見るとそもそも歩を使わせない将棋が多い事に気がつく。歩をベースにした戦いになったら一線級の能力の持ち主である事は明白だが、最近は完全にそれをメタられているのが悲しいところ。プロの将棋指しの凄さを感じる。

石田直裕五段、伊藤真吾五段、渡辺和史四段、服部慎一郎四段は、ぱっとした成績を残している訳ではないが、四人とも三段リーグでかなり苦戦した人たちなので、順位戦に力を入れているに違いない。この四人は順位的には下位なので、一敗の猶予もないのが実情である。 特に、五回戦で伊藤-渡辺戦があるので、どちらかが一敗するので、かなり厳しい戦いになっている。

このデッドヒートレースを制するのが誰になるのかは分からないが、概ねこの九人の中の誰かが昇段すると見て良い。

一敗勢

ただ、この後ろに迫っている1敗勢も中々侮れない人たちがいる。

全員では無いが、個人的に注目している棋士をピックアップした。

堀口一史座七段は、体調不良(精神面?)が重なり、成績を落としていたが、直近2回の将棋は全盛期を彷彿とさせるような差し回しを披露してくれている。本来、B1とかB2あたりで指していてもおかしくない人なので、これをきっかけにまた往年の切れ味鋭い将棋を見せて欲しいと願っている。内容が充実しているのは、復活の狼煙と見て良いかもしれない。

佐藤紳哉七段は、昨年から急に確変でも起きたのかと思うほど、成績が良くなっている。心境の変化があったのは想像に難くないのだが、やはり子どもが出来た事が起爆剤となっているのか。順位も悪くないので、1敗をキープできるならば、昇級チャンスはまだまだある。竜王戦2組まで昇級した経験があるので、棋力は十二分に高い。順位戦はとにかく長い戦いだ。年間を通して、調子が良い時も悪い時も勝ち切る力が必要な棋戦であり、勢いだけでは勝てない。それは酸いも甘いも噛み分けている佐藤七段ならば、十二分に分かっているだろう。(娘さんのためにも)順位戦を勝ち抜いて欲しいところ。

遠山雄亮六段は、モバイル編集長のイメージが強いが、今も精力的にネットに記事を書いている。最近の順位戦の自戦記が「ヤケクソ」と足りなかった「あと1点」~自戦記 村中七段戦~に書いてある。この将棋は相矢倉からの相入玉となり、非常な熱戦となった。人間VS人間の良さが出た戦いだったと思う。247手という手数からその壮絶さを感じ取って欲しい。この後に続く相手もかなり厳しい相手が多いが、こういう粘り強い将棋を指せる人は総じて後々に良い成績を残している事が多いので、今後に期待を持てる。

八代弥七段は、何でまだC2に居るのだろうと思うくらいに好成績を残している棋士である。竜王戦は2組まで昇級しているし、朝日杯でも優勝しているので、その実力は確実にC2を越えている。手痛い1敗も阿部光瑠が相手ならば仕方がないかと思うほど。この後で、厳しそうな相手が、服部四段、本田四段と居るので昇級するためにはかなり手強い相手をくださなければならない。

梶浦宏孝六段は、先日竜王戦決勝トーナメントで木村王位、佐藤康光九段を打ち破りあわやと思わせるほどの爆発力がある棋士である。最後の砦である羽生善治九段に負けはしたものの、羽生世代と遜色ない強さを見せつけてくれたので、今後が期待出来る棋士である。1敗をキープできるならば、昇級も十分にありうる位置にいると言っても過言ではないだろう。

山本博四段は、ものすごく珍しい純正振り飛車党というか、純正三間飛車党の人である。noteに色々と面白い記事を書いていたりするので、追える人はそれを追ってみても良い。振り飛車があまり指されない現代将棋において、あふれるセンスで勝っている将棋は職人芸的な物を感じさせてくれる。中田功八段とはまた違うベクトルの三間飛車なので、見ていてとても面白い。オールラウンダーが増えている現代将棋において、スペシャリストとして今後も色々と良い成績を残して欲しい。

総括

今期のC2は本当に熱い戦いが行われている。C2の将棋でこんなにも濃密な内容が繰り広げられているのは史上最高なのかもしれない。 観る将さん的にはそんな事を感じるほど今期の順位戦を楽しんで観ている。