観る将さんは語りたい

すっかり観る将になってしまった、元指す将の将棋観戦記録です

第79期順位戦総括

第79期順位戦が終わった

第79期順位戦の全日程が終わった。 今年のは、B2を除いてどのクラスも波乱万丈の順位戦であった。

A級

A級では初参戦の斎藤慎太郎八段が一敗をキープしたまま、順位戦を終え、名人挑戦へと名乗りを上げた。 過去には王座のタイトルを取ったこともあり、実力十分な棋士である。 また、棋聖戦でも挑戦者に名乗りを上げており、若手(もう若手というには年齢が高いかもしれないが)の中では頭一つ抜けた活躍をしている。

一方で、三浦九段がついに降級という事で、これもまた印象的だった。 毎年ギリギリの所で粘っており、「残留力」と揶揄される事もあったが、これだけ戦い抜ける力を持っていることは確かである。 今期の将棋は、内容でもかなり負けている部分が多く、あの冤罪事件がなければもう少し長く活躍できたのでは無いだろうかとすら考えてしまう。 しかし、勝負の世界は残酷でこんなにも負けてしまうならば、これもまた実力、なのだろう。

B級1組

B級1組は最後までどうなるか読めなかったが、前評判通り永瀬二冠が昇級した。そして、前の記事に書いたとおり山崎八段も晴れてA級へ。 上がるべき人が上がったので、ファンとしては本当に嬉しい限り。 ただ、山ちゃんは最終戦一つ前と最終戦に敗れていたので、紙一重の昇級だったとも言える。 前半の貯金と対永瀬戦での勝ち星が生きた格好だ。 最後が締まらないのは山ちゃんらしいが、A級に上がればさらなる活躍を見せてくれるに違いない。

一方で丸山九段と深浦九段と行方九段が降級するのは、オールドファンとしてはショッキングである。 いくつかのタイトルに絡んだことのある三人がB1から叩き落されるのは、見ていて辛い。 それだけ、若く強い棋士が上がっているので、B1の面々はここ数年はかなり入れ替わりが激しくなりそうである。

B級2組

B級2組は恐ろしいくらいに予想通りの結果であった。 藤井聡太二冠と佐々木勇気七段、そして横山七段。 横山七段はC2での期間が長いが、好成績を残していたので、いつ上がってもおかしくない棋士である。 ついに、B2の壁も超え、トップ棋士たちの仲間入りを果たしたのは喜ばしい。

B2は仕組み上、降級する人が少ない。 だが、ずっと絶不調の畠山成幸八段が降級するのは、正直悲しいところがある。 また、野月浩貴八段が、第77期から順位戦で好成績を出せず一気に駆け下りているのは、正直心配である。 10勝0敗で昇級したことの反動なのだろうか。

C級1組

C級1組は高崎七段が傷なし10勝0敗での昇級という素晴らしい成績を残した。 また、若手強豪の増田六段と高見七段がそれぞれ上がれたのも素晴らしい。

船江恒平六段は自分が勝っていれば昇級だっただけに、最後は本当に惜しかった。 ただ、もうC1に留まるような棋士ではないと思うので、ぜひとも突き抜けて欲しい所。

C1もB2と同様降級する人が少ないクラスなのだが、今期は4人も一気に降級する。 新陳代謝というべきか、古い世代は落ちていき、新しい世代が上がっていく。 実に残酷な結果なのだが、忖度のない勝負の世界だからこそ、見る価値がある。 誰もが手をつないでゴールという世界ではないのだ。

C級2組

C級2組は昇級予想が最も難しかったクラスである。 夏頃からずっと注目していたが、最終的には黒田五段、出口四段、そして滑り込みで大橋六段が入った。 大橋六段は藤井聡太二冠と同期の棋士。その実力は折り紙付きなのに、なぜか順位戦を上がることが出来なかった。 C1に上がったら、すぐにB2に上がれると思う。 それくらい力を持っている棋士である。 順位戦は、C2に壁が1個あり、B2にも壁がある。 それを突破したら強い人はあっという間に駆け上がってしまっている。 (もちろん、順位戦21連勝というとんでもない記録で駆け上がっている藤井聡太二冠という規格外はいますが)

C2に残っている棋士の内、八代弥七段、梶浦六段、佐々木大地五段、阿部光瑠六段あたりは、C2より上のクラスに行って欲しい実力者である。 C2も降級しにくいクラスなのだが、今期フリークラスに降級する事になった棋士が3名いる。 村田智弘七段、中座真七段、大平武洋六段だ。 中でも、中座真七段は、三段リーグもギリギリでクリアした苦労人であり、彼の降級には寂しさすら感じる。

中座七段がいなければ、8五飛戦法がここまで注目される事はなかっただろうし、「中座飛車」というい言葉すら生まれていなかった。 将棋の歴史に確かに名前を刻んだ人なので、フリークラスに行っても色々と自由な手を指して欲しい。

来期の見どころ

さて、来期の見どころについてもざっと書くことにしよう。 まず、A級に関しては、山ちゃんVSモテミツ君の対局が一番の見どころに違いない。 変態流(天然)VS変態流(人工)のどちらが勝つか楽しみだ。 きっと、二人とも今までに見たことがない局面を作り出してくれるに違いない。

B1は、やはり藤井聡太二冠がどこまで順位戦連勝記録を伸ばすかである。 藤井二冠は2021年3月現在、順位戦通算40戦中、39勝1敗(勝率.975)という前人未到の記録を叩き出している。 ちょっと見たことがない記録だ。それくらい、頭一つ抜けているというか、別次元の強さと言うべきか。 月下の棋士という漫画があるが、あの漫画の氷室将介を地で行っている印象が強い。

それに食らいついている佐々木勇気七段も、月下の棋士の佐伯宗光みたいな感じでピッタリと並走しているイメージ。 昇級の順番は逆だが、佐々木勇気七段がここ最近の順位戦でめちゃくちゃ勝っているのは、藤井聡太二冠の影響が大きいに違いない。 仮に、藤井二冠の連勝記録を止めるとするならば、佐々木勇気七段が止めるのでは無いかと考えている。

B2は嵐が過ぎ去ったあとなので、かなり穏やかなリーグになるはずだ。上がってくる増田六段と高見七段は実力者なので、連続昇級する可能性が高い。それくらい、二人とも実力がある。 今のB2は成績的にはかつて活躍していた棋士が溜まっている感じで、若手はここで立ち止まったりしないイメージだ。 勢いのある若手と、ベテランの対決で、お互いにどこまで秘術を見せ合うのかというのが、見どころになる。 玄人はB2の棋譜が一番楽しめると思う。

C1は今回あまりいい成績を残していないが、都成竜馬六段を推したい。 出だしで挫けなければ、都成六段もB1までは一気に駆け上がれる実力を持っている。 また、阿部健治郎七段もC1に留まっているのに疑問が残る棋士である。 順位戦は、爆発力と持続力の両方が求められる棋戦のため、爆発力に偏っている棋士には戦いづらい棋戦なのかもしれない。 C1で燻ることなく、さらに上を目指して欲しい。

C2は、大橋六段が抜け、昇級候補も大分減ってきた。 前述した八代弥七段、梶浦六段、佐々木大地五段、阿部光瑠六段に加え、ここ数年調子が良いベテランの佐藤紳哉七段、遠山雄亮六段。王位リーグ入を果たした池永天志四段や、棋王挑戦した本田奎五段など、C2に留まっている実力者の方々にもぜひ上へ行き活躍して欲しい。