観る将さんは語りたい

すっかり観る将になってしまった、元指す将の将棋観戦記録です

第80期順位戦 B級1組 9回戦 佐々木勇気七段対屋敷伸之九段

第80期順位戦 B級1組 9回戦 佐々木勇気七段対屋敷伸之九段

手順前後
痛恨のミス

棋譜を並べて、結果だけを見ると後手快勝の内容だが、実は途中までずっと先手が押していた将棋だった。 戦型は、右四間飛車対雁木。 先手も後手も玉をほとんど移動せずに相手に突っかかるというアマチュア将棋のような戦いだった。

仕掛ける権利は先手にあるので、29手目に佐々木七段が仕掛けた。 先手は中央と四筋を中心に攻め、後手は飛車先突破という近距離での殴り合いになった。 55手目に佐々木七段が指した7四角打ちが痛恨のミスで、手順前後だった。 ここは先に5二成桂、同金、5三銀打ち、6一銀(or4一銀)の交換を入れてから7四角打ちで決まっていた。相手の金駒を消費させてから角を打てば良かった。 佐々木七段の頭の中ではすでにその交換が行われていたのかもしれない。

金駒が残った状態で相手に手番を渡してしまったため、3七銀という楔が入り、右側が広かったはずの先手が急に狭くなってしまった。 4三歩成と効率の良い攻めを目指すが、4八銀成と根本の飛車を奪われて、この将棋は決まってしまった。

後は丁寧に受けと攻めを交えて、奪った飛車を4九に下ろしたところで佐々木七段が投了。 後手玉は居玉のまま勝つという恐ろしい結果になってしまった。

将棋の内容として

将棋の内容としては、先手後手ともに引かない足を止めての殴り合い。 どちらの攻め方や受け方もアマチュアにとって参考になる攻め方だった。 自分が後手側を持った場合、果たしてここまで綺麗に受けきれたかどうか……。 右四間飛車の綺麗な攻めは本当に参考になった。

順位戦として

ここまで全勝で勝ち抜けてきた佐々木七段だが、手痛い一敗を帰してしまった。 これで順位の関係上藤井四冠が首位に、佐々木七段は二位へ後退する事となった。

今期のB級1組に関しては、ほぼほぼ、藤井四冠と佐々木七段で決まったようなものだが、千田、稲葉、三浦といった実力者たちが後ろをぴったりと追走していて、二人とも全く安心できない位置にいる。

千田翔太七段はここからの2戦が地獄で、まず佐々木七段、その後藤井四冠と目の上のたんこぶを倒さなければ昇級に絡むことができない。 正直、かなり厳しい戦いになると思う。 なぜならば、他ならぬ対戦相手が昇級争いに力を注いでいるから。

稲葉八段と三浦九段はすでに上位陣との戦いは終えているので、負けなければ昇級の目が見えてくる。しかし、12/23に直接対決が残っているので、この戦いを制したほうが昇級争いに勝ち残るという非常に分かりやすい格好だ。

藤井四冠は次は抜け番で、残る相手は千田七段、阿久津八段、佐々木七段と手強い相手ばかり。 ラスト3回で昇級争い相手に2回も当たることになっているのは、なんともドラマティックである。 現実の方がフィクションよりもずっとドラマじみている。 藤井四冠は昇級争い相手に1回でも勝てばほぼ昇級間違いなしなので、来年の千田七段戦が実質的には最終戦。 そこでどういう将棋を見せてくれるのか楽しみである。

個人的には、阿久津八段が、対藤井戦でどういう作戦を披露してくれるか楽しみにしている。 実力的にはトップクラスにいてもおかしくないのに、くすぶっている阿久津八段がどう力を見せてくれるのかずっと楽しみにしている。 そろそろ、暴れまわっても許される頃かと。 今期は降級候補に上がっているのが悲しい限りだが、まだ、こんな所で落ちるような男ではないと思っている。

佐々木七段は、残り4戦あり、千田七段、横山七段、郷田九段、藤井四冠と気の抜けない相手が続く。 連勝街道をかっ飛ばしているかに見えたが、後半で強敵たちが残っているのはなんとも皮肉な話である(別に前半の相手が弱かったとは言わないが)。 まず、次の千田七段戦を勝たなければ、昇級の目は無くなってしまう。 1敗でもしてしまうと、最終戦の藤井四冠との戦いの重みが増えてしまうので、なるべく早い段階で昇段を決めたいだろう。 横山七段も強いし、郷田九段も強いし、ラスボスが藤井四冠とは、なんだか少年漫画の主人公のようである。 立ち位置的には主人公のライバルキャラみたいな感じだが、最終戦までに昇級を決められるかどうか、観る将としては大いに期待したい所。 1勝でも多く積み上げることができたら、それはそのまま来年の順位に繋がるので、きっと最後の最後まで油断せずにやってくれるに違いない。