観る将さんは語りたい

すっかり観る将になってしまった、元指す将の将棋観戦記録です

第 81 期順位戦昇級予想

第 81 期順位戦昇級予想

順位戦が一通り終わり、昇級予想の時期になってきた。 既に何人かは昇級が決まっているが、それを含めて記載していきたいと思う。

A 級

藤井五冠が永瀬九段に負けた事で、現在広瀬八段と藤井竜王が 6 勝 2 敗で並んでいる。 快勝街道を突き進んでいるかに見えた藤井五冠だが、現在いくつかのタイトル戦を並行して行っている分疲れが出ているのか、ここに来て負けをいくつか積み上げてしまっている。 当然ながら、対戦相手も超一流なので、常に勝ち続けることが不可能なのは当然だ。 それでも、藤井五冠の精度の高さを見ると誰にでも圧勝してしまうという錯覚すら感じてしまう。 とは言え、やはり彼も人間。どこかでミスをするとそこから逆転するのはかなり難しそうだ。 もちろん、対戦相手が一流の棋士だったらまくられている可能性がある追い込み方をするので、リードしたとしてもそう簡単には勝たせてくれない。

とは言え、順位戦での挑戦者候補としてはやはり、藤井五冠を挙げたい。 可能性としては複数人でのプレーオフも十分に考えられるが、今のところ負け数が少ない広瀬八段と藤井五冠が有利なのは明白。 そして、プレーオフでの直接対決をするという形になった場合、期待値としてはどうしても藤井五冠の方が高いので、挑戦者には藤井五冠が名乗りを挙げるのではないかと予想する。

B 級 1 組

実は、前回で昇級者が決まると思っていた B 級 2 組だが、ここに来て待ったが掛かった。 理由は単純で、中村七段が澤田七段に負けたからだ。 これにより、最終局次第では昇級出来ない可能性が出てきてしまっている。 ちなみに、昇級可能なのは

の三人であり、誰が昇級したとしても、A 級八段が 2 人生まれる。 誰が上がってもおかしくないが、中村七段がやや不利だと思っている。 なにせ、最後の対戦相手が羽生九段だからだ。 知っての通り、ここ最近の羽生九段の充実具合は非常に高く、藤井五冠を完封するような差し回しを見せているので、全盛期を彷彿とさせる完璧な将棋を指しているからだ。 今期の順位戦は現在 4 勝 6 敗とやや振るっていないが、これは AI のラーニングが終わっていない時の成績が含まれているので、今の状況とは全く違う。

中村七段と羽生九段は同じ八王子道場出身であるため、練習将棋の機会も何度かあったと思われる。Abeme トーナメントでも一緒だったので練習する機会もあった。つまり、お互いにどういう将棋を指すのかある程度手の内はわかっている算段になる。 こうなると、あとはどれだけ充実しているかの差になる。

中村七段は、今期順位戦に特化して、本気で A 級を取りに行っているのが分かる。 強敵相手にきっちりと白星を重ね続けているので、最終戦も死にものぐるいで戦うに違いない。 羽生九段は誰に対しても本気で指すので、3/9 の B 級 1 組の順位戦では死闘が見れるに違いない。

さて、残る佐々木七段と澤田七段だが、順位の関係上澤田七段がやや不利。 どちらにせよ勝たなければ昇級が出来ないし、対戦相手次第だが、不運な事に、佐々木七段の相手が降級が掛かった屋敷九段。 天才屋敷九段が降級を避けるために、めちゃくちゃ強い将棋を仕掛けてくるのは間違いないだろうし、そもそも昨年佐々木七段が A 級に上がれなかったのは、屋敷九段に負けてからだったので、ある意味因縁の戦いと言える。 この壁を超えない限り、佐々木七段の A 級昇級が見えないのは、ある意味ドラマチックと言える。 観る将さん的には、とてもおもしろい戦いだと注目している。

澤田七段はとにかく、勝つ事。それしかない。あとは天運に任せるのみ。 相手が三浦九段の上、後手番なのでかなり厳しい戦いになるだろう。

個人的な希望を加味して、中村七段佐々木七段を昇級候補としたい。

B 級 2 組

実は B 級 2 組は昇級者が全員決まっている

の 3 人だ。 まず、大橋七段に関してだが、実力者と言われていながら、中々 C 級 2 組から昇級する事が出来なかった一人。 しかし、一旦上がってからは連続昇級を続けている。順位戦は勢いも大事なので、来期の A 級昇格候補として挙げておきたい。

増田七段も実力者として名が知られている。 昨年はちょっとだけ足踏みしたが、最終戦を残して B 級 1 組に上がったのはさすがと言える。 B 級 1 組に上がれば超一流の棋士の証。 いつ上がってもおかしくない棋士だったので、この昇級は期待通り。

木村九段は、昨年 B 級 1 組から落ちたがすぐに復帰。さすがの粘り腰。 今期も 2 敗しかしていないのは、B 級 2 組では頭一つ抜けていると言える。 最終戦が先日亡くなった中田宏樹先生だったので、最終戦を待たずに不戦勝が加えられる事となった。 来期の B 級 1 組でもきっと高勝率を挙げてくれるに違いない。

C 級 1 組

C 級 1 組は大混戦模様になっている。

の五人に可能性がある。 渡辺五段と都成五段は最終戦で直接対決があり、勝ったほうが昇級可能性がある。 他の上位 3 人に関しては、色々複雑な条件になっている。 条件は複雑だが、伊藤五段と石井六段がやや有利。 勝てば文句なしに昇級なので、全員ひたすら勝つことだけを考えれば良い。

昇級候補は悩ましいが、個人的な希望を入れて、伊藤五段石井六段都成七段を挙げておく。 一番ドラマチックな昇級はこれかな、という感じ。

C 級 2 組

C 級 2 組は 2 人昇級者が決まっていて、

  • 斎藤明日斗五段
  • 服部慎一郎五段

は最終戦を待たずに昇級する。 残りの 1 枠を

  • 古賀悠聖四段
  • 杉本和陽五段
  • 梶浦宏孝七段
  • 佐々木大地七段

が争う形になる。 特に、杉本五段と佐々木七段は直接対決なので、どちらも勝てば昇級の可能性、負ければ保留という事で、お互いに気を抜けない戦いになる。 敗数の関係上、古賀四段が有利であるが、1敗すると順位の関係で昇級は不可能になる。 そして、最終戦は今泉健司五段。今期も直前まで昇級候補だったが、石田五段に負けた事で昇級レースからは降りてしまったが、来期のことも考えて、手を抜かずに戦うに違いない。 経験値の差と思いの差がどう決着が付くか分からないが、気持ちの面では今泉五段の方が勝っているような気がする。

個人的には、佐々木七段が上がると面白いなと思っているが(面白がるな)、漁夫の利的に梶浦七段が上がりそうな気がしている。 順位的にはそういう一番気楽(気楽ではないが)なポジションにいる方が却って良い結果をだせたりするものだ。

という事で、最後の人枠には梶浦七段を挙げたい。

総括

という事で、今年も無責任な昇級予想を書き綴った。 自分の予想は基本的に当たらないのだが、敢えてこの時期にこういうのを残しておくのがあとで見返した時に、当時の記憶を思い起こすのに役立つので、この予想記事は今後も書き続けていきたいと思う。

完全に蛇足な余談

今の時期、やはり一番の注目は、藤井-羽生の王将戦だろう。開幕までは羽生九段が四連敗するみたいな悲観的な予想が多かったが、蓋を開けてみるとびっくり、2勝2敗の大接戦に。 羽生九段が敗れた第1局、第3局も積極的な差し回しをしていただけに、内容的には完全に羽生九段が押している将棋になっている。 藤井五冠はミス無く指すことで勝ち星を拾っているが、いつもの圧勝するという勝ち方ではなく、対策を完璧にこなしてギリギリ勝ったという薄氷の勝利に思える。 それくらいの拮抗した勝負になっているのは、正直意外な感じがする。 羽生九段が AI の癖のようなものを看破し、そこに自身の経験と読みを積み重ねて勝負している、そんなシリーズになっている。

前の記事で、全部名局シリーズになると書いたが、もしかしなくても全部名局になる可能性が高い。 藤井五冠も、タイトル戦を並行して行なうのと、A 級順位戦が控えているので、ここ数ヶ月は対局数も大分多くなる。 まあ、そもそも各棋戦で勝ちまくっているので、その分対局日程が被ってしまうのは致し方がないとは言え、疲れが見え隠れする将棋が増えたような気がする。 もちろん、そういった状況の方が充実していて、本来以上の強さが引き出されるのは歴史が物語っているので、ここから、藤井劇場が開幕してとてつもない記録が残ったとして、僕は一切驚かない。 羽生九段が、かつて、七冠王になった時の空気感によく似ている。 様々な期待が渦巻いている状況で、最高の棋士が最高のパフォーマンスを見せてくれる、そういう空気感だ。 対戦相手にも注目が行く。 以前は、谷川先生がその立ち位置だった。今は羽生先生がそうしている。 歴史に刻まれるに違いない棋戦を実際に目撃出来る歴史証人として生きていられるのは本当に幸せなことだと僕は思う。 いい時代に生まれた。 将棋を観るだけなら、ね。