観る将さんは語りたい

すっかり観る将になってしまった、元指す将の将棋観戦記録です

第 81 期順位戦総括

第 81 期順位戦総括

第81期順位戦総括

波乱万丈に満ちた 81 期順位戦が終わったので、昨年同様に総括を書きたいと思う。

A 級

A 級は、広瀬八段と藤井竜王プレーオフとなり、最終的に競り勝ったのは藤井竜王だった。 先日、六冠にもなり、ますます強くなっているのを実感する。 まだ、20 歳なのでこれから伸びていく時期。 それなのに、頂点に到達しようとしている。もう完全に次元の違う強さを身に着けてしまったように感じる。

これまでの対戦成績から考えても、渡辺名人との相性は抜群に良く、一方的に殴り勝ってしまうという未来が見受けられる。 恐らく、4 勝 1 敗くらいな感じで名人位を奪取するのではないだろうか。 そうすると、残るのは王座だけ。すでにグランドスラムも達成し、後は八冠制覇を残すのみ……だろうか。

対象的に、降級は、糸谷八段と佐藤康光九段。これにより、羽生世代が全員 A 級から駆逐された算段になる。 羽生世代の底力を感じつつも、次世代が徐々に台頭しているとも言える。 A 級がここまで若返るのは本当に久々なのでは無いだろうか。 後年振り返って、81 期 A 級は将棋の歴史におけるターニングポイントだったと語れるかもしれない。

B 級 1 組

B 級 1 組は最終的に、佐々木勇気七段と中村七段が昇級する事になった。 佐々木七段、いやもう八段と呼ぶべきか。最終戦は、苦手としていた屋敷九段を下しての昇級なので、文句なしの昇級と言えよう。 昨年の四連敗からの足踏みは、本人も相当に応えたと思う。とは言え、今期はかなり気合を入れて順位戦を戦っていた事がわかる。 負けた勝負もギリギリの戦いの上での負けだったので、内容が良かった。非常に充実した一年の戦いだったのでは無いだろうか。 A 級に上がったとしても、そのまま名人挑戦に名乗りを上げる、そんな予感すら感じている。

中村七段もとい、八段はかなりギリギリの昇級だった。 勝ち星をきっちり稼げたのにも関わらず、最後の最後で追い込まれた。 羽生九段に負けた時は、昇級を逃したと感じたそうだ。 性格的に勝負師というより、エンターテイナーとしての側面が高く、どうしても今ひとつ突き抜けられなかったが、今期は色々と幸運も重なり、昇級出来たという感じだ。 これもまた、彼が持つ「星」なのかもしれないと感じるような物語だ。 即 B1 に戻ってくるかもしれないが、A 級に上がれるのは限られた人だけなので、彼もまた、限られた人の一人だったと言える。 現役 Youtube 棋士として最高峰である事は、十分に宣伝効果があり、将棋の普及という面では非常に多くの役割を担っている。 成績以外でも本当に頑張っているので、爪痕を何かしら残す、そういうシナリオを見てみたいと思っている。

降級するのは、久保九段、丸山九段、郷田九段。 丸山九段は 1 期での出戻り。久保九段と郷田九段はついに落ちてしまったかという感じ。 特に今期の郷田九段は相当に順位戦の成績が悪い。これは加齢による衰えなのか、それとも若手の台頭と観るべきか。 将棋の内容からすると、若手の台頭が著しいと言ったほうが良いだろう。 このブログを書き始めた頃から、その芽吹きを感じていたが、ここ数年は特に若手の成長を感じる。 今後も、こういう入れ替えは生じて行くだろう。 順位戦は、実に残酷な現実を突きつけてくれる。

B 級 2 組

B 級 2 組に関しては、前回書いた通り、昇級者は変わらず。 そして、降級する人もいない。 一番の痛手は、中田宏樹八段の逝去だろうか。 いぶし銀の先生がいなくなるのは、本当に悲しい。

C 級 1 組

波乱万丈に満ちた C 級 1 組は石井六段、青嶋六段、渡辺和史五段の三人が昇級となった。 直前まで全勝で突き進んでいた伊藤匠五段は最終戦で負けて、順位差で頭ハネを食らうという劇的な結果になった。 C 級における 1 敗の重みと、下位の棋士の不利さが骨身に染みて感じているだろう。 もっとも、藤井竜王も C1 で同様の足止めを食らっているので、ノンストップで A 級に行ける人はそうそういない。 伊藤匠五段には今回の結果に挫けずに、ぜひとも来期も昇級を狙って欲しい。

C 級 2 組

C 級 2 組は、既に昇級が決まっていた服部五段、斎藤五段に続き、古賀四段が名乗りを上げた。 古賀四段は、フリークラスからの初昇級という事で、これもまたすごい記録である。 今の奨励会三段リーグは、次点 2 回からフリークラス編入が可能になっている。 今後、実力のある若手の昇級ルートが開拓されたのは良い傾向である。

それにしても、C 級 2 組は昇級ラインが 0 敗あるいは 1 敗しか許されていないのは相当に厳しい。 実力にばらつきがあるからこそ、こういう成績以外は上がれない状況になっていると言える。 公平性に欠けると感じるが、しかしこれもまた勝負の世界なのだと思う。

来期の見どころ

来期に関しては、大橋七段が連続昇級を決めるかどうかが注目ポイントになると思う。 実力者である大橋七段が C2 に留まっていたのは、七不思議の一つだったが、一旦昇級してからはあっという間だった。 後は、C2 でくすぶっている佐々木大地七段、梶浦七段、八代七段あたりにも上がって欲しいというのが観る将さん的な素直な感想だ。 光瑠に関しては諦めた。

順位戦の総括を書き始めて 3 年目。台風の目である藤井竜王が突き抜けてからは、嵐になる場所がないというのが正直なところ。 順位戦 Watch は毎年毎年適当な事を書きつつ、自分の記憶の補助にもなっているので、実は書いていて楽しい。 観る将という気楽な立場だからこそこういう事を出来るのであって、指している人たちからすると、野次馬が適当ぬかしてるんじゃねーと怒り心頭かもしれない。 その点はどうか許して欲しいと願いつつ、また来年も頑張って書こうかなと思っている。