観る将さんは語りたい

すっかり観る将になってしまった、元指す将の将棋観戦記録です

第67期王位戦挑戦者決定戦 羽生善治九段-伊藤匠二冠戦感想

第67期王位戦挑戦者決定戦 羽生善治九段-伊藤匠二冠戦感想

先日、王位戦挑戦者決定戦が行われ、後手の伊藤二冠がからくも勝利をおさめ、挑戦者となった。棋譜はここから見ることが出来る。

手順前後の怖さ

上図は、▲8六桂の詰めろを△6五銀と受けた局面だ。この後、羽生九段は、▲2二龍と指したのだがこれが急転直下の敗北の一手になってしまった。

この後、△3五角-△1三角という奇跡の角の押し売りが通り、先手負けになってしまった。この1チャンスを逃さずに指せるのが伊藤二冠の強さだ。では、羽生九段はどう指せば勝てたのか。

それは△6五銀に▲同香△同桂としてから▲2二龍で決まっていた。

上図と先に示した単なる▲2二龍の違いは、▲8六の桂馬が跳ねられるかどうかという点と、後手が香を持っているかどうかの違い。 この図から、△3五角▲2六歩△1三角と同じように進むと、今度は▲7四桂と跳ねる事ができて、以下、△7二玉に▲8四銀と上から抑えて先手勝ち。

しかし、この△6五銀に▲同香は非常に怖い攻め方なのだ。なぜならば、相手に香車を渡すので、△3五桂跳ねという別の攻め筋が生じるからだ。以下、▲同歩だと、2七の地点で精算されてから△2四香と上から入玉を抑えながらの攻めが厳しくなる。羽生九段もこの攻めが見えたので、香車を渡さずに▲2二龍としたのだろう。しかし、△3五桂には▲4三銀の空き王手が先に刺さり、△5二香合以外全て即詰みになる。先述した通り、▲7四桂跳ねの含みがあるだけで、ここまで後手玉は追い詰める事が出来るのだ。

振り返って、最初の局面は先手が0.5手足りない局面だったと言える。羽生九段の▲8六桂打ちは素晴らしい手で、苦しい局面をひっくり返した超好手だったと言える。しかし、そこから正確に指し続けることは本当に、本当に難しいことなのだと改めてこの棋譜を並べて感じた。

編集後記

一つ前の記事で白組優勝が伊藤二冠だという事まで当てていたのは正直自分でも結構驚いている。羽生九段勝利もあと1歩まで行っていた事を考えると、大分観る将さんの棋力を見極める力も冴えていると言える。しかしながら、勝負の世界は厳しく、1手ミスで天国から地獄へ一気に突き落とされる。そのミスを見逃さなかった伊藤二冠の強さが光る、そういう勝負だったと思う。

ちなみに、棋譜を解析させると、逆転に次ぐ逆転の棋譜であり、まさしく人間同士の戦いだったと感じさせる面白さがある。ここまで評価値が乱高下する棋譜は将棋AIには出力できない(出力させる意味がない)。

人間は、この評価値の乱高下から対局者の気持ちをおもんぱかる事ができる。この局面をどう評価していたか擬似的に体感出来る。棋譜は無料で公開されているので、是非並べてみて欲しい。

王位戦予選完了に伴う挑戦者予想という名の希望を書き綴った何か

第67期王位戦予選が終わった

めずらしくこの時期の投稿である。第67期王位戦予選が終わった。結果については、下記のサイトを参考にして欲しい。

伊藤園お~いお茶杯第67期王位戦 挑戦者決定リーグ

紅組

紅組は羽生善治九段の優勝で終わった。55歳なのに、全盛期の棋士たちをなぎ倒しての優勝。この優勝で、羽生九段は王位戦リーグ出場16回で11回目の優勝達成という前人未到の記録を残す形になった。会長職を降りて2年。今年度はかなりいい成績を残していて、調子が良いことがうかがえる。特に、最終戦の対菅井戦は非常に内容の良い将棋だった。

  • 盤面を複雑化させる
  • 銀をさばく
  • 終盤をきっちり読み切る

往年の羽生将棋の良さが詰まった棋譜になっている。棋譜を見たい方はこちらで見ることが出来る。 8八にいた銀が8七→8六→7五→6四→5三→5二とどんどん進んでさばいてしまっているのは圧巻と言える。 ぜひ盤面の左銀の動きに注目してもらいたい。

白組

白組は4勝1敗が3人並ぶプレーオフになった。特にお互いが、お互いに対してしか負けていないのがアツい。伊藤匠二冠、藤本渚七段、古賀悠聖六段の三人。フレッシュな三人が並ぶ形となった。藤本七段は、最終局伊藤二冠に勝っていれば文句なしの全勝優勝なだけに非常に惜しかったが、やはり藤井聡太からタイトルを2つも奪った棋士が弱い訳が無かった。その伊藤二冠を下した古賀六段の強さも伺いしれる。

プレーオフは、伊藤-藤本の勝者が古賀六段と戦うという形になっている。果たして誰が優勝するのか。実力伯仲の若手の戦いにとても期待が持てる。

挑戦者予想

さて、白組の優勝が決まっていない今、誰が挑戦者になるか。

  • 羽生善治九段
  • 古賀悠聖六段
  • 伊藤匠二冠
  • 藤本渚七段

この四人の中から、勝ち上がってきた人が挑戦者になるが、まず白組に関しては、やはり伊藤匠二冠が突き抜ける確率が高いと思っている。藤本渚七段は、最終局で伊藤匠二冠に力負けしていて、二人の差を思ったよりも感じたというのが僕の感想だ。もちろん、藤本七段も強いが、それ以上に伊藤二冠の方が老獪だった。二人とも、老獪な将棋を指すので、経験値の差という点で、藤本七段が競り負ける確率は高いと思う。そして、伊藤二冠と古賀六段に関しては、予選では古賀六段が勝っているが、古賀六段が先手番だったというのが大きい。振り駒での先後で引き当てれば伊藤二冠の方が勝ちやすいと思っている。

という事で、白組優勝は伊藤匠二冠が勝ち上がってくるとして、紅組優勝の羽生九段とどちらが勝つかという話になるが、これはもう圧倒的に羽生九段が勝つと思う。昨今の羽生将棋は往年の強さを取り戻してきていて、自分の勝ち方になってきているというのが実情だ。先日の棋聖戦挑戦者決定戦では負けてしまったものの、将棋の内容は充実していた。ほぼ勝っていた。最後で間違えたしまった。そして、その間違えてしまった将棋を引きずっていないというのが、羽生九段が勝つという根拠になっている。

将棋の内容といつもざっくり書いているが、要するに自分の主張をどれほど通しているかどうかという事で、ここ最近の羽生将棋は圧倒的に自分の主張を押し通している棋譜が残っている。これは、羽生九段の研究が充実している事を如実に表している。時間が出来て、じっくりと研究将棋に腰を据えて挑戦出来ているのだろう。この充実ぶりが実際の棋戦で結実しているのが、羽生九段の強さと言える。去年のB級2組順位戦も深浦九段に負けていなければ昇級していた可能性もあったので、段々と最新将棋にアジャストしてきているのが感じられる。羽生九段の強さはこの適応力の高さも一つにある。

正直、若手にもっと活躍して欲しいという気持ちよりも、羽生九段にタイトル百期を取って欲しいという気持ちのほうが強くて観る将さんはどうしても羽生九段の評価が高めになってしまう。ここに書いてある雑文も結局の所一将棋ファンの願いを綴っているだけなので、話半分で聞いてもらえばいいと思っている。

将棋界は本当に厳しい世界で、勝負に殉ずるピュアなプレイヤーが多いのが厳しくもあり残酷でもあり、美しくもある世界で、それにどうしても魅了されるのが、一般人の率直な感想なのである。

初手端歩に関する与太話

2026年における初手端歩について

先日の名人戦第1局で、挑戦者の糸谷八段が初手1六歩という非常に珍しい手を指した。

先手番初手端歩

上図の局面、非常に感慨深いものがある。初手端歩で有名なのは、やはり南禅寺の決戦だろう。

後手番初手端歩

日本将棋連盟にも南禅寺の決戦 ~阪田三吉対木村義雄戦~という記事がある。 先手7六歩に対する後手9四歩は当時非常に話題になったことが分かる。将棋の歴史においてもターニングポイントの一つになった手だろう。

端歩の位置づけ

端歩は、初期状態の王から一番遠い歩である。それに手をかけるのは将棋の序盤において非常に価値の低い手だと戦前からみなされていた。だからこそ、坂田三吉が指した手がニュースになり、歴史となった。そして今回の名人戦の初手も歴史になったと言っても過言ではないだろう。

将棋の序盤で最も価値が高いのは、攻撃力の高い駒である飛車と角の可動域を広げる手すなわち、飛車先の歩か角先の歩を突くどちらかであると結論されている。今のところ、居飛車の研究が恐ろしいほど進んでいて、先手は角換わりに、後手はそれを避けるという構図が続いていて、今は相掛かりになった方が後手幾分マシという所にまで来ている。

しかし、世の中天邪鬼な開発者がいて、振り飛車を優先して指すAIの開発をした結果、最近は対抗形の研究もかなり進みつつある。その、振り飛車AIがかなり面白い手を指している。どういう事かと言うと、角先を開けたあと、飛車を振らずに端歩を突いてから、飛車を振るという動きをしているのだ。

振り飛車AIが見ている端歩

どういう事か。振り飛車は飛車を1手掛けて振るので論理的に考えると1手損をしている形になる。つまり、後手後手になって受け身になりやすい戦法である。その手損をする戦法がさらに端歩に手を掛けて手損するのは、論理的にはおかしいと感じるのが人間の正常な感覚である。しかし、その後の展開を見ると実に嫌らしい考え方である事が分かる。手損を取り返すにはとにかく手数を伸ばす事が大事である。手数が伸びれば伸びるほど序盤の損は相殺されるからである。

この牛歩戦術を採用した結果、序盤で飛車側の端歩を2個突き越して端側に広い囲いを作ることに成功している。例えば、銀冠だったり、穴熊だったりと、これが中々に強固なのだ。つまり、端歩を突きあった美濃囲いよりも、端歩を突き越した銀冠の方が終盤は有利になるのだ。実際に囲いが組み上がるまで50手近く掛かる。それまで隙を見せずに組み上げてしまうならば、居飛車側の手得をプラマイゼロにする事ができる。非常に深謀遠慮の策だ。

今後の端歩

今は、振り飛車将棋AIが序盤での端歩に価値を見出して指している。今後のプロの将棋でももしかしたら序盤での端歩が今以上に評価されていく事になるかもしれない。しかし、当然その手の価値の高さが評価されたら、今度はそれに対する対抗策が出てくる。今のところ、明確にとがめる戦法や手段は出ていないが、将来体系的にまとめられる可能性が非常に高い。

もう一つは、この振り飛車AIで学んだ次世代のプロ棋士が序盤の端歩に関する価値を教えてくれる可能性が高い。将来のトッププロが使うようになると個人的には思っている。それくらい序盤の端歩には可能性が詰まっていると思っている。

余談

ところで、個人的な歴史としての初手端歩は月下の棋士の影響が強い。自分が将棋を指す時に真似して、初手9四歩とかよくやっていたものだ。かっこよさ重視というのもあったかもしれないが、当時流行っていた藤井システムの影響も強い。そもそも、自分が序盤にこだわるようになったのも、藤井システムの影響が非常に強い。序盤で終盤までのリードを奪うという考え方は、平成初期から構築された考え方だが、令和の今となってはそれがより進められているイメージだ。今は、居飛車側が藤井システム攻略の手順が固められた結果、そもそも藤井システム発動すらできなくなっているのが実情ではあるが、あの時、端歩に手を掛けていた世代からすると、序盤の端歩には感慨深いものを感じるのだ。

もし、結論として序盤の端歩は損という答えが出たとしても、それまでの思考プロセスが重要であり、なぜ駄目なのかという答えが出ない限り、序盤に端歩を指す棋士が消えることは無いだろう。

第84期順位戦結果

第84期順位戦結果

今年も長い順位戦が終わった。季節の変わり目、新たな出会い、新たな始まり。では今年も振り返始めよう。第84期順位戦結果振り返り。

A級

挑戦者

最終戦で、トップを走っていた永瀬九段と糸谷八段がまさかの両者敗北でのプレーオフの結果、プレーオフ戦を制した、糸谷八段が挑戦者に名乗りを上げた。将棋連盟の理事をしながらのこの結果は素晴らしいと言える。永瀬九段の将棋は最近、踏み込み方がすごくて、以前のような切れ味の悪い鈍器に等しい鉄の塊で殴るというより、日本刀のような切れ味で相手を倒すことが増えてきた。が、それは文字通り諸刃の剣。1手ミスると挽回が効かない将棋で、プレーオフの将棋もそういう内容だった。一呼吸置いて自陣に手を入れていれば勝っていただけに、惜しかったと言える。逆に、糸谷八段はその隙を見逃さずに踏み込んだからの勝利。怪物くんは健在と言えよう。昨年、B級1組復旧からの即挑戦は素晴らしい記録、と言える。

では、糸谷挑戦者が藤井名人からタイトル奪取できるのか。これまでの対戦成績を見ると、糸谷側から見て1勝9敗。絶望的な相性差を感じる。そもそも、藤井名人と10回も指している時点で糸谷八段も十分に強いのだが……。緻密な序盤+難解な中盤+切れ味の鋭い終盤という藤井聡太スタイルと糸谷将棋の相性はかなり悪い。糸谷将棋は、普通の序盤+人間味の出る中盤+切れ味の鋭い終盤という事で、終盤のスタイルは同じものの、序盤と中盤でリードを広げられるとそのまま押し切られてしまい、終盤で力を出すことができないパターンが多い。とはいえ、終盤力はほぼほぼ差は無いので、今回の永瀬戦で出したような、1ミスが藤井名人側に出ればそこを差し込む力は十分にある。少なくとも1勝はあげられると思っている。ただ、藤井聡太名人から4勝を上げるのは厳しいだろう。

4勝2敗で敗退というひどい予想をここに書いておこう。

降級者

  • 渡辺 明 九段
  • 中村 太地 八段

一方の降級者はこの2名。渡辺九段は足の怪我悪化で泣く泣くの降級。本人のモチベーションも落ちていたが、来期からはB1復旧。ちゃんと佐々木勇気八段に土をつけているので、実力は十分。以前にもやったように一期復帰とかあるのかもしれない。というか、復帰する気はしている。少なくとも、今のB1メンバーで苦戦する相手はいないだろう。もし、苦戦するとしたらブランクがあることぐらいか。

一方の中村太地八段は無念の降級。A級になった時は即B級1組に戻ると言われたいたが、蓋を開けてみるとしっかりと3期A級を果たしたのは、価値があったと言える。特に個人でYouTubeで発信を続けているのも意味があり、A級棋士が発信していたという歴史的な事実は今後も十分に意味があるだろう。とは言え、将棋の内容としては2025年の順位戦はかなり悪かった。中盤からジリジリ悪くする将棋が多く、実力不足だったと感じる内容だった。再び鬼の住処に戻り、厳しい中で戦うことで新たな中村八段になるのかもしれない。

B級1組

鬼の住処B級1組は、実力通りの結果になった。

昇級者

  • 広瀬 章人 九段
  • 伊藤 匠 二冠

既に昇級を決めていた広瀬九段に続き、伊藤二冠が昇級者に名乗りを挙げた。 きっちりと最後の2戦を勝っての昇級なので誰も文句をつけないだろう。タイトル2冠持ちが弱いはずもない。まだまだ伸び盛りの23歳。藤井聡太という強力なライバルがいなければ伊藤匠時代の到来などと言われていたに違いない。とても立派な記録だし、すごすぎる。しかし、あまりにも身近に強すぎる光があると見えなくなるというアレに近いものがある。悲しすぎる。今のA級メンバー相手でも十二分以上に戦ってくれると思うので、来年の名人挑戦者候補筆頭だろう。

一方の広瀬九段。A級から降級した時は自分の役割は終わったと弱気な発言があったが、そんな事なかった。タイトル2期持ちの人間が弱いはずが無い。今期の順位戦も他の大石七段以外には勝っているし、内容も非常に良かった。new 広瀬章人を時期順位戦もで魅せてくれるに違いない。

大橋七段斎藤八段服部七段の三人は要所要所で勝つことができなかった。B1とA級の差がここにあるのかというイメージだ。斎藤八段はA級経験があるので、単に調子が悪かったというイメージ。大橋七段と服部七段はこの壁を超えられるかどうかが次回以降の注目ポイントだろう。C級2組を抜け出すのに苦労していた二人だが、一旦上がり始めたらあっという間にB級1組まで上がってきたので、ここが真の壁、なのだろう。

降級者

  • 石井 健太郎 七段
  • 髙見 泰地 七段
  • 青嶋 未来 七段

一方の降級者はこの三人。地味強の石井七段の降級はちょっと悲しい。また頑張ってB1に上がって欲しい。高見七段は2期での出戻り。今期はかなり内容の悪い将棋が多かった。原因は不明だが、B2の器ではないので、またB1に復帰して欲しい。青嶋七段は1期での出戻り。ここが壁になるのだろうか。来期以降に注目である。

B級2組

B級2組はめずらしい記録が出た。

昇級者

  • 山崎 隆之 九段
  • 久保 利明 九段
  • 藤本 渚 七段

まず、我らが山ちゃんこと、山崎九段がしれっとB1復旧を決めた。去年B1から落ちての即復帰。でも、記録を見ると、1敗だけという事で、B2は山ちゃんの居場所じゃないことが明らか。B1でまた色々ぶーぶー言いながら、センスの良い将棋を指し続けてくれるだろう。

久保九段は2期ぶりのB1復帰。ポスト羽生世代に位置するが、やはり元タイトルホルダーの長持ち力は凄いと言える。ただ、対戦相手を見るとやや当たりが良かったと言えるので、この組み合わせだったら圧倒しうる記録になったのも頷ける。B1でどう足掻くのか楽しみである。

藤本七段順位戦初参加からの3連続昇級44年ぶりの記録で、加藤一二三九段、中原誠九段、二上達也九段、福崎文吾九段に続く史上5人目の記録。もし、来期B1からA級に上がれば、加藤一二三九段、中原誠九段に続く史上3人目になる可能性もあり。藤井聡太六冠でも達成できていない記録なので、目指して欲しいという期待を掛けてしまう。将棋としては、20歳という若さに似合わない老獪な将棋が多い。精錬とは逆の泥臭さの残る将棋なのだが、地力の差で勝っているのが、すごく、中盤~終盤での鍔迫り合いが強い棋士だ。こういう棋士は時間の長い将棋で強い。近い内にタイトルに絡むようになる棋士の一人だろう。

降級者

  • 藤井 猛 九段
  • 鈴木 大介 九段

降級者は意外な二人で、藤井九段と鈴木九段。振り飛車党二人が結構レアな確率で落ちることとなった。過去の順位の積み重ねで、位置が悪かった。逆に、落ちるかもと思われていた松尾八段がラスト三連勝してまくったのは、凄かったと言える。藤井九段は、藤本七段に土を付けているので、実力が無いわけではない。ただ、どうしても諦めが早いので、割と中盤くらいで悲観してそのまま押し切られる将棋が増えてきている気がする。この辺で、踏ん張れる力を出して欲しいが、てんてーの性格的にそこまで頑張る感じはしないかなぁ。でも、しれっとC1で全勝して復帰みたいな事もやりそうな気がしないでも無いので、今後も注目したい。

一方の鈴木九段も、今期の成績はそこまで悪くなかった。位置が悪かった。鈴木九段は将棋一本槍ではないので、多分、そこまで順位戦に力は注いでいないと思う。それでも最終戦は斎藤明日斗六段に勝っているので、意地は見せたか。

C級1組

C級1組は昇級者の成績が3人共9勝1敗で並んだ。

昇級者

  • 都成 竜馬 七段
  • 西田 拓也 六段
  • 岡部 怜央 六段

都成七段西田六段岡部六段の三人。この中で、岡部六段は連続昇級。昨年は幸運による昇級だったが、今期は実力での昇級。文句なしと言える。

都成七段は随分とのんびりしていたなという印象で、来期の昇級候補の一人だと勝手に思っている。最終戦負けていたら、昇級を逃していたが、しっかりと勝ちきっているので、勝負強さは健在。ぜひ、B2ではのんびりせずに駆け上がって欲しいと思う。

西田六段は最終戦負けていたら順位の関係で頭ハネを受ける所だったが、強敵三枚堂七段を下しての昇級。こういう勝ち方をする棋士は強い。B2でまたじっくりとした戦いを見せて欲しい。

降級者

  • 畠山 成幸 八段
  • 中村 修 九段

一方の降級者は畠山八段と中村九段。かつての中堅棋士がじりじりと落ちていく様を見るのは、辛いものがある。

C級2組

C級2組はアガレンジャー卒業で大いに盛り上がった。

昇級者

  • 髙野 智史 六段
  • 佐々木 大地 七段
  • 黒沢 怜生 六段

昇級は高野六段佐々木大地七段黒沢六段の三人。

高野六段は10期、佐々木大地七段は9期、黒沢六段は11期。三人とも好成績を収めながらC2を昇級できないアガレンジャーという不名誉な名前を付けられていた。その三人が一気に昇級という事で、順位戦ウォッチャーは大いに盛り上がった。

残るアガレンジャーは、八代八段梶浦七段ぐらいか。ホンケイととーるは諦めた(ひどい)。

この中ではやはり佐々木大地七段の昇級は嬉しい。ずっと昇級候補として名前が上がっては次点止まりというのが続いていたので、その中でくじけずに取り組んでくれていたのが嬉しい。来期のC1昇級者の筆頭候補だし、多分、蹴散らして上がってくれると思う。レーティング的に頭一つ抜けてるもんな。でも、同時に、ギリギリでC1を上がれないみたいな大地を見たい気がしないでもない。ひどい。

星野五段が最初七連勝していたが1敗を挟み、最終戦で負けて昇級できず。千載一遇のチャンスを逃してしまった。最終戦の対戦相手は編集長こと遠山六段。ここ最近の遠山六段は順位戦にアジャストしてきたのか、成績が上向きである。次節昇級する可能性があるかもしれない。

宮嶋四段も惜しかった。最終戦勝てば昇級だったが、上村五段が鋭い踏み込みを見せて、勝ちきった。上村五段はこの将棋に負けていたら降級だったが、ここで勝ち星を上げることで降級を回避した。今回の将棋を思いに留めて、また良い将棋を指して欲しい。

このような様々なミラクルがあり、今期のC2は降級者0という中々珍しい記録になった。

まとめ

第84期順位戦は、C2でのアガレンジャー卒業、藤本七段のレア記録、伊藤二冠の実力発揮、そして糸谷八段の挑戦と予想通りだったり、予想外だったり色々記憶に残る順位戦だったと思う。

前の記事の予想記事と読み比べると、大変味わいがある。

第84期順位戦予想

第84期順位戦予想

第84期順位戦予想

今年も無責任予想投げつけ時期が来た。相変わらず観る将さんの予想は適当なので、現状把握的な感じで見ていただけるとありがたい。

A級

A級では、永瀬拓矢九段糸谷哲郎八段が7勝1敗で並んでいる。先日行われた直接対決で糸谷八段が永瀬九段に土をつけた事で挑戦者がどちらになるか分からなくなった。永瀬九段、糸谷八段共に今年度は勝ちまくっていて、お互いに脂が乗っているいい時期なのかもしれない。いわゆる全盛期と呼ばれる奴。読みの力と経験の力、両方が高レベルでバランスが取れた時、他者を圧倒する記録を残す。最終戦はどちらも勝つと思うので、プレーオフが濃厚だ。

個人的な予想としては、プレーオフで永瀬九段が勝って挑戦者に名乗りを上げると思っている。

一方の降級だが、不戦敗で降級が決まっている渡辺明九段以外に、佐藤天彦九段中村太地八段が降級争いをしている。 直接対決では佐藤天彦九段に軍配が上がったが、豊島九段に土をつけた中村太地八段も流石と言える。他棋戦でもぱっとした成績を挙げられていないが、残留力という点では太地八段が一歩リードしていると僕は見ている。最終戦佐藤天彦九段は永瀬九段が対戦相手なので、白星をもぎ取るのは苦しいだろう。中村太地八段も、増田康宏八段が相手なので、勝つのはかなり大変だと思う。しかも後手番だし。という事で、最終戦はどちらも負けると予想し、順位の関係で中村太地八段が降級対象になると思っている。

B級1組

B級1組は広瀬章人九段が一歩リードしているが、まだ昇級は確定していない。2/5の澤田戦で勝てば文句なしの昇級になる。しかし、そこで土がつくと雲行きがあやしくなる。

追うのは伊藤匠二冠。広瀬九段と服部七段に土をつけられたものの、それ以外の棋士には勝ちきっているので、ほぼほぼ昇級出来ると思っている。

チャンス待ちは大橋七段。広瀬九段が最後で急ブレーキが掛かり、自身が勝ちきれば昇級できる可能性が残っている。

今年の将棋の内容をみる限り、

がワンツーフィニッシュを決めると思う。 降級に関しては、大変残念だが、

  • 高見七段
  • 稲葉八段
  • 石井七段

の三人が落ちると思っている。ちょっと対戦相手が悪すぎる。 今の順位的には青嶋七段も危ないのだが、残りの対戦相手が互角の相手なので、なんとか踏ん張れると思っている。

B級2組

久保利明九段がすでに昇段を決めている。

追いかけるのは我らが山ちゃんこと山崎隆之九段。1敗しても昇級可能なので、位置がかなり良い。やはり、B2の枠では無いと感じさせる天才肌の棋士だ。

斎藤明日斗六段藤本渚七段も、昇級枠に入ってくる。順当に行けば斎藤明日斗六段が昇級だが、すんなり行くかどうか……。

観る将さんの候補としては

を昇級候補として挙げておく。 藤本七段には、期待値も込めてという感じだ。

C級1組

C1は混戦模様だ。7勝1敗が5人いて、

デットヒートを繰り広げている。師匠こと杉本八段がまさかのトップ。最終戦都成七段との直接対決があり、勝ったほうが昇級、負けたほうが残留というかなり厳しい勝負になりそう。また、次戦で高田-岡部の直接対決があるため、この二人もどちらかが昇級レースから落ちることになる。そして、西田六段は順位の影響で最終戦負けると頭ハネを食らう可能性がある。その頭ハネをする可能性があるのが三枚堂達也七段。この6人が昇級候補と言えるだろう。 個人的な希望を込めて

が昇級すると予想しよう。

C級2組

C2はC1以上に苛烈だ。黒沢怜生六段星野良生五段が頭一つ抜けている。黒沢六段は、負け無しで駆け抜けられるかどうか。C2は、1敗が致命傷になる。最後まで勝ち続けられるだろうか。星野五段にとっては待望の昇級チャンス。次戦を勝てば文句なしの昇級なので、頑張ってほしい。降級点1の棋士でも昇級出来るという意地を見せて欲しい。1敗で最後の枠を争っているのは

  • 髙野智史六段
  • 佐々木大地七段
  • 宮嶋健太四段
  • 八代弥八段

の四人だ。順当に行けば高野六段が昇級だと思うが、最終戦の吉池戦が読めない。ばっちり勝つのか、あるいは吹き飛ばされるのか。3/10は胃が痛くなる日だろう。

C2はC1と違って上位勢の直接対決が無いものの、C2は実力拮抗の蠱毒になっているので、誰でもどこでも負けるそういう可能性が潜んでいる。 個人的な希望として

を昇級候補として挙げよう。佐々木七段は毎年昇級候補に挙げている気がする(笑)。

総括

今期の順位戦はここ数年に比べると波乱が少なめな印象だ。実力者が上がる、そんな順当な戦いだったと思う。そして、年々C2とB2の蠱毒濃度が上がっている気がする。若手の実力とベテランの実力がどんどん拮抗しているからだと思っている。そんな中でも昇級していく棋士はいるので、実力差はどんどん開いているに違いない。

2025年の将棋振り返り

2025年の将棋振り返り

気がつけば、残り数日で2025年も終わる。この将棋観戦ブログは毎年最低八記事書いていて、年末記事は頭を悩ませながら書いていることが多い。今年は、そういう事は特になく、純粋に2025年の将棋の振り返りを書こうと思う。

伊藤二冠の誕生

今年一番のニュースは伊藤二冠誕生だろう。このブログでも記事にした藤井聡太七冠(当時)の圧倒的棋力を目の当たりにしていた人たちからすると、彼が失冠するのは大ニュースだった。とはいえ、同時に伊藤匠叡王の実力を侮っていたとも言える。藤井聡太もそうだが、伊藤匠もまだまだ成長盛りの若者なのだ。かつての羽生-森内のライバル関係を知っている人間からすると、藤井聡太-伊藤匠のライバル関係も今後続いていくだろうという予感がある。同年代の同じ強さの棋力のライバルがいるというのは幸運と言える。人間同士の勝負では、たった一人の頂点という事はありえない。必ず競い合える誰かが生まれるのだ。ただ、それが同年代になるかどうかは、運による所が大きい。そういう点では、羽生-森内しかり、藤井聡太-伊藤匠もお互い運が良かったと言える。

とは言え、最強羽生世代の存在を知っている観る将さんからすると、ちょっとまだ層が薄いなという感想だ。もっと強い同年代が出てきて欲しいと願うのは流石に強欲すぎるか。いや、そもそもまだまだ二人共若いのだ。まだ彼らはまだ23歳なのだから。

藤井聡太世代が形成されるかどうかはこれからの話ではあるが、同年代のライバルたちが刺激を受けずに成長していないという事はありえない。現在、彼らと同年代と言える棋士

  • 古賀悠聖(+1歳)
  • 森本才跳(+1歳)
  • 狩山幹生(+1歳)
  • 高田明浩(年齢差なし)
  • 上野裕寿(-1歳)
  • 生垣寛人(-1歳)

の6人。この中では、成績的に古賀六段が頭一つ抜けているか。順位戦B級2組で頑張っている。狩山五段は順位戦は苦戦しているものの、竜王戦では3組に昇級している。上野五段は新人王戦及び加古川青流戦での優勝経験があり、順位戦でも好位置をキープしている。高田五段も順位戦で好成績を上げている。 一方、森本四段は苦戦している。各棋戦での敗退が続いていて苦しい状況だ。 これから彼らの棋力は後2~3年でぐっと伸びる。新しいタイトル保持者がこの中から生まれたとしても、私はきっと驚かないだろう。

さらに若い10代の棋士も生まれている。奨励会三段リーグにもまだまだ原石と言える棋士たちが切磋琢磨している。将棋界はその点本当に恵まれていると思う。才能が才能を呼び、まだまだ新しき棋士が将棋界に入ってきているのは、運が良いと言える。この点はショービジネスとしての基盤を築いた先達の功績が大きいだろう。インターネット中継とコンピュータ将棋による評価値のお陰で素人でも楽しく勝負を観れるようにシフト出来たのは、様々な人たちの協力によるものだ。そういう人が集まっているというのが、本当に運が良かったという言葉に集約されるのだ。

角換わり時代の終焉と相掛かり時代の始まり

角換わり指定局面
角換わり指定局面


2025年は角換わりの終焉の年と僕は名付けたいと思う。もちろん、今でもコンピュータ将棋は角換わり将棋を掘り続けているが、先後同型は先手有利という結論が出たと言っても構わない。プロ同士も角換わりを後手が避ける傾向が強くなってきた。それよりも、まだ殴り合いが可能な未舗装路である相掛かり棋士たちの興味が進んでいる。コンピュータ将棋も、相掛かりを掘り始めた所だ。金脈は既に枯れ尽くしていて、それでも尚、どうやって勝利を得るかという事に腐心している。

昨今はいわゆる生成AIが世間を騒がしているが、コンピュータ将棋において、生成AIはあまり強さを発揮できていないというのが実情だ。その一つ前のDeepLearningの手法をベースに、昔ながらの学習をどんどんと掘り下げている。2010年代の急激な変化と変わって、緩やかな変化と言えるだろう。コンピュータ将棋の深度は当時よりもさらに深まっているが、手そのものの意味づけは人間がしていかなければ理解できない。この点では、プロ棋士が日夜勉強して、意味を与えている。彼らの解説によって観る将さんたちにも、手の意味が理解できている。

この解説という部分に関しては、生成AIが使えそうで全く使えていない。生成AIは多くの人が期待を掛けているが、分野によっては思った以上に使えない。シンギュラリティ(笑)が生じれば、その壁を越えられるという人たちがいるがあまりにもそれは楽観的すぎる見方だ。生成AIが人智を越えることは(恐らく)不可能だろう。今は、単なる高度な連想ゲームでとどまっているからだ。人智を越える何かという点では今の将棋AIは人智を越えた何かであるが、それでもあくまで限定された状況だからそう見えるだけで、実際の所将棋の真理を理解するという点ではコンピュータではなく、人間の方なのだろう。真理の手をコンピュータが指したとしても、コンピュータがそれを理解しているかと言ったら、恐らく彼らは理解していないだろう。理解とは、それほど深淵な感覚なのだと私は思う。

来年の将棋

相変わらず居飛車が強すぎる状況が続いている。でも、人間の棋士としては振り飛車を指す若手はまだまだいるので、実は振り飛車に関して、コンピュータはまだ理解していないのでは無いかと考えている。だから、来年のプロ同士で振り飛車が大流行するかもしれないと僕は考えている。案外、居飛車の勉強ばかりしている人たちからすると、対抗形の奥深さはまだまだ掘り尽くされていないというのが観る将さんの見立てだ。

2026年も、楽しい将棋が観れる事を観る将さんは楽しみにしています。

真剣と木刀 - 永瀬九段が言いたかったこと

真剣と木刀 - 永瀬九段が言いたかったこと

「角換わり以外は木刀」藤井聡太&羽生善治“将棋2大天才”NHK番組で爆笑…深い“永瀬拓矢格言”も永世竜王も1600勝もステキな観る将マンガ

先日、NHKのある特番で永瀬九段が、

角換わり以外の将棋は木刀なんですね。私の印象は。角換わりは真剣……日本刀とか。そのぐらい違う印象で

という発言をした事が話題になっていた。なるほど、真剣と木刀。永瀬九段らしい独特なワードチョイスだ。彼の発言を聞いた羽生九段や藤井聡太六冠も笑っていた。将棋界にいる人にとっても面白いワードであることが分かる。ましてや、彼の場合リップサービスとかジョークとかではなく、素で言っているのが更に輪をかけて面白くしている

角換わりは真剣

さて、角換わり将棋を真剣と表現したことにはどのような意味があるのだろうか。観る将さんを始め、昔から角換わりを眺めていた人たちからすると、ここ数年の先鋭化はまさに真剣と言うに相応しい様相を呈してきている。以前の角換わりはそこまで尖っていなかった。先後同型に持っていき、さあやろうかといった感じだ。先手が先に攻めて、後手がいなせるかいなせないか。あるいは先手の不備を付いて後手が仕掛けるか。そういう牧歌的な進行がまだ許されていた時代だった。今は全然違う。序盤から中盤、そして、終盤の頭まで徹底的にあらゆる手筋が研究されている。一手でも研究から除外した手があったら、そこから崩されていくというのが、令和時代における角換わりと言える。これは、コンピュータ将棋の発達の強い影響を受けていると言えるだろう。

一時期、矢倉の将棋が九十何手まで研究されていた時期があったが、それに近しいことが生じている。矢倉の場合は人間+コンピュータでそこまで研究したが、昨今の角換わりはコンピュータだけでそこに到達しているというのが大きな違いだろうか。より深く掘り下げた強いAIの思考をトレースした人だけが角換わりで勝てる。対戦が始まる前から勝負が決まってしまう。これが、永瀬九段が言っていた真剣という意味なんだと思う。それほど、切れ味鋭い戦いになってしまい、研究していない棋士は研究済の棋士(+AI)に一刀両断される。令和将棋独特の事情だと思う。

それ以外は木刀

それ以外の将棋が木刀というのは、要するに皆がそこまで本腰を入れて研究できていないという事を永瀬九段は言外で言っている。矢倉、角換わり、相掛かり。いわゆる居飛車将棋における3本の柱で、矢倉は研究され尽くして、どうやら後手から仕掛けた方が有利という事がわかりつつあり、矢倉は消滅した。たまに指されると何かしらの鉱脈を見つけたという話になり、先手の作戦勝ちが主だ。なお、数日後にはその鉱脈もあっさり潰されるので、矢倉将棋は厳しいと言える。角換わりは、先述した通り真剣による斬り合いが行われている。未だに結論は出ていないが、先手よりも後手の方で様々な変化を仕掛けているというのが現状だ。後手側からどうやって先手を倒すかという研究がずっと続けられていて、先手が選ぶというより後手が選ぶというのが続いている。相掛かりは最近様々な棋戦で顔を出しいている。先手も後手もまだ鉱脈が見つかっている状況で、色々と変化の多い将棋になりやすい。相掛かり模様から進んで先手矢倉vs後手雁木みたいな戦いになったり、相雁木みたいな戦いにもなる。中住まいのまま攻めることもあるなど、千差万別の戦いがあり、ここでならば、人間vs人間の将棋が出来ていわば一刀両断される事はない状況=木刀のような将棋が多く、お互いに殴り合いが出来ているというのが実情だろう。

実は、横歩取りも一手間違えると即死という将棋なので、観る将さん個人としては横歩取りも真剣だろと思うのだが、そもそも、プロの棋戦では横歩取りはほぼ出てこない。青野流があまりにも優秀すぎて後手が避けているから、というのが実情だ。まあでもこの間とよぴーが青野流相手に完璧に勝った将棋を見せてくれたので、実は横歩取りもまだまだ可能性があるのかもしれない。最も、先手は横歩取りになったらほぼ青野流で来ると思うので、後手側がどう対応するかが今後の見どころになるだろう。

話題にすらならない振り飛車

居飛車の話ばかりだったが、振り飛車に関してはどうだろうか。コンピュータ将棋の発達により、対抗形は急戦も持久戦もどちらも上手く居飛車側に攻略されているという印象だ。コンピュータ同士の戦いを見ても、受ける技術より攻める技術の方が伸びていて、受け将棋である振り飛車からすると、苦難の時代はまだまだ続きそうだ。細すぎる攻めを綺麗に通す技術がここ数年ですごく伸びたので、それが応用されて振り飛車の陣形が攻略されているのが実情。じゃあ、硬さで対抗できるかという話になるのだが、そうすると相穴熊か、右ミレニアムしか選択肢が無く、右ミレニアムは居飛車側の角出とか中央からの仕掛けとかとにかく、攻略されやすい囲いで、選択肢的には相穴熊しかなく、その相穴熊も速度負けしやすいというのが実情で、対抗形はかなり苦しい時代が続いている。相振りはそれこそ数が少なすぎて研究の深さという点では他の将棋よりも、中々深堀り出来ていない状態が続いている。相居飛車に疲れた棋士たちが相振りにふらっと来る事があれば、また鉱脈探しができるようになると思う。問題は、振り飛車党が激減しているという点だろうか。

まとめ

令和将棋は、平成将棋以上の研究合戦になっている。研究していれば勝ち、研究していなければ負けがはっきりと明暗を分ける時代になった。なにせ第一人者である藤井聡太六冠がゴリゴリの研究将棋を出してくるし、研究から外れたとしても強いから、ますますトップ層は研究を強いられる。そして、強くなるトップ層に引き上げられるように将棋界全体のレベルもアップしていく。その影響はアマチュア将棋にも出ていて、アマチュアのトップ層もゴリゴリの研究将棋が指されるそんな時代になっている。しかも、今はコンピュータを使ったセルフ感想戦もできるようになったし、以前のように身近に仲間がいなくてもある程度までは強くなれるようになっている。

環境としては、皆が真剣で斬り合える状態になっていて、競技としての先鋭化がますます進んでいるのが実情だ。それを良しとする人もいれば、息苦しさを感じている人もいるだろう。

観る側としては、新たな盤面を見て楽しむことができるが、冷静に考えてみると、同一局面が一つずつ消されている現状は結構怖い話なのかもしれない。人間の歩み以上にコンピュータの研究速度が速すぎて、最先端で戦う人たちは苦労が多い時代なんだと思う。

そこまでして研究してもまだ結論が出ていない将棋というゲーム、本当に奥が深い