第84期順位戦結果
今年も長い順位戦が終わった。季節の変わり目、新たな出会い、新たな始まり。では今年も振り返始めよう。第84期順位戦結果振り返り。
A級
挑戦者
最終戦で、トップを走っていた永瀬九段と糸谷八段がまさかの両者敗北でのプレーオフの結果、プレーオフ戦を制した、糸谷八段が挑戦者に名乗りを上げた。将棋連盟の理事をしながらのこの結果は素晴らしいと言える。永瀬九段の将棋は最近、踏み込み方がすごくて、以前のような切れ味の悪い鈍器に等しい鉄の塊で殴るというより、日本刀のような切れ味で相手を倒すことが増えてきた。が、それは文字通り諸刃の剣。1手ミスると挽回が効かない将棋で、プレーオフの将棋もそういう内容だった。一呼吸置いて自陣に手を入れていれば勝っていただけに、惜しかったと言える。逆に、糸谷八段はその隙を見逃さずに踏み込んだからの勝利。怪物くんは健在と言えよう。昨年、B級1組復旧からの即挑戦は素晴らしい記録、と言える。
では、糸谷挑戦者が藤井名人からタイトル奪取できるのか。これまでの対戦成績を見ると、糸谷側から見て1勝9敗。絶望的な相性差を感じる。そもそも、藤井名人と10回も指している時点で糸谷八段も十分に強いのだが……。緻密な序盤+難解な中盤+切れ味の鋭い終盤という藤井聡太スタイルと糸谷将棋の相性はかなり悪い。糸谷将棋は、普通の序盤+人間味の出る中盤+切れ味の鋭い終盤という事で、終盤のスタイルは同じものの、序盤と中盤でリードを広げられるとそのまま押し切られてしまい、終盤で力を出すことができないパターンが多い。とはいえ、終盤力はほぼほぼ差は無いので、今回の永瀬戦で出したような、1ミスが藤井名人側に出ればそこを差し込む力は十分にある。少なくとも1勝はあげられると思っている。ただ、藤井聡太名人から4勝を上げるのは厳しいだろう。
4勝2敗で敗退というひどい予想をここに書いておこう。
降級者
一方の降級者はこの2名。渡辺九段は足の怪我悪化で泣く泣くの降級。本人のモチベーションも落ちていたが、来期からはB1復旧。ちゃんと佐々木勇気八段に土をつけているので、実力は十分。以前にもやったように一期復帰とかあるのかもしれない。というか、復帰する気はしている。少なくとも、今のB1メンバーで苦戦する相手はいないだろう。もし、苦戦するとしたらブランクがあることぐらいか。
一方の中村太地八段は無念の降級。A級になった時は即B級1組に戻ると言われたいたが、蓋を開けてみるとしっかりと3期A級を果たしたのは、価値があったと言える。特に個人でYouTubeで発信を続けているのも意味があり、A級棋士が発信していたという歴史的な事実は今後も十分に意味があるだろう。とは言え、将棋の内容としては2025年の順位戦はかなり悪かった。中盤からジリジリ悪くする将棋が多く、実力不足だったと感じる内容だった。再び鬼の住処に戻り、厳しい中で戦うことで新たな中村八段になるのかもしれない。
B級1組
鬼の住処B級1組は、実力通りの結果になった。
昇級者
既に昇級を決めていた広瀬九段に続き、伊藤二冠が昇級者に名乗りを挙げた。
きっちりと最後の2戦を勝っての昇級なので誰も文句をつけないだろう。タイトル2冠持ちが弱いはずもない。まだまだ伸び盛りの23歳。藤井聡太という強力なライバルがいなければ伊藤匠時代の到来などと言われていたに違いない。とても立派な記録だし、すごすぎる。しかし、あまりにも身近に強すぎる光があると見えなくなるというアレに近いものがある。悲しすぎる。今のA級メンバー相手でも十二分以上に戦ってくれると思うので、来年の名人挑戦者候補筆頭だろう。
一方の広瀬九段。A級から降級した時は自分の役割は終わったと弱気な発言があったが、そんな事なかった。タイトル2期持ちの人間が弱いはずが無い。今期の順位戦も他の大石七段以外には勝っているし、内容も非常に良かった。new 広瀬章人を時期順位戦もで魅せてくれるに違いない。
大橋七段、斎藤八段、服部七段の三人は要所要所で勝つことができなかった。B1とA級の差がここにあるのかというイメージだ。斎藤八段はA級経験があるので、単に調子が悪かったというイメージ。大橋七段と服部七段はこの壁を超えられるかどうかが次回以降の注目ポイントだろう。C級2組を抜け出すのに苦労していた二人だが、一旦上がり始めたらあっという間にB級1組まで上がってきたので、ここが真の壁、なのだろう。
降級者
- 石井 健太郎 七段
- 髙見 泰地 七段
- 青嶋 未来 七段
一方の降級者はこの三人。地味強の石井七段の降級はちょっと悲しい。また頑張ってB1に上がって欲しい。高見七段は2期での出戻り。今期はかなり内容の悪い将棋が多かった。原因は不明だが、B2の器ではないので、またB1に復帰して欲しい。青嶋七段は1期での出戻り。ここが壁になるのだろうか。来期以降に注目である。
B級2組
B級2組はめずらしい記録が出た。
昇級者
- 山崎 隆之 九段
- 久保 利明 九段
- 藤本 渚 七段
まず、我らが山ちゃんこと、山崎九段がしれっとB1復旧を決めた。去年B1から落ちての即復帰。でも、記録を見ると、1敗だけという事で、B2は山ちゃんの居場所じゃないことが明らか。B1でまた色々ぶーぶー言いながら、センスの良い将棋を指し続けてくれるだろう。
久保九段は2期ぶりのB1復帰。ポスト羽生世代に位置するが、やはり元タイトルホルダーの長持ち力は凄いと言える。ただ、対戦相手を見るとやや当たりが良かったと言えるので、この組み合わせだったら圧倒しうる記録になったのも頷ける。B1でどう足掻くのか楽しみである。
藤本七段の順位戦初参加からの3連続昇級は44年ぶりの記録で、加藤一二三九段、中原誠九段、二上達也九段、福崎文吾九段に続く史上5人目の記録。もし、来期B1からA級に上がれば、加藤一二三九段、中原誠九段に続く史上3人目になる可能性もあり。藤井聡太六冠でも達成できていない記録なので、目指して欲しいという期待を掛けてしまう。将棋としては、20歳という若さに似合わない老獪な将棋が多い。精錬とは逆の泥臭さの残る将棋なのだが、地力の差で勝っているのが、すごく、中盤~終盤での鍔迫り合いが強い棋士だ。こういう棋士は時間の長い将棋で強い。近い内にタイトルに絡むようになる棋士の一人だろう。
降級者
降級者は意外な二人で、藤井九段と鈴木九段。振り飛車党二人が結構レアな確率で落ちることとなった。過去の順位の積み重ねで、位置が悪かった。逆に、落ちるかもと思われていた松尾八段がラスト三連勝してまくったのは、凄かったと言える。藤井九段は、藤本七段に土を付けているので、実力が無いわけではない。ただ、どうしても諦めが早いので、割と中盤くらいで悲観してそのまま押し切られる将棋が増えてきている気がする。この辺で、踏ん張れる力を出して欲しいが、てんてーの性格的にそこまで頑張る感じはしないかなぁ。でも、しれっとC1で全勝して復帰みたいな事もやりそうな気がしないでも無いので、今後も注目したい。
一方の鈴木九段も、今期の成績はそこまで悪くなかった。位置が悪かった。鈴木九段は将棋一本槍ではないので、多分、そこまで順位戦に力は注いでいないと思う。それでも最終戦は斎藤明日斗六段に勝っているので、意地は見せたか。
C級1組
C級1組は昇級者の成績が3人共9勝1敗で並んだ。
昇級者
- 都成 竜馬 七段
- 西田 拓也 六段
- 岡部 怜央 六段
都成七段、西田六段、岡部六段の三人。この中で、岡部六段は連続昇級。昨年は幸運による昇級だったが、今期は実力での昇級。文句なしと言える。
都成七段は随分とのんびりしていたなという印象で、来期の昇級候補の一人だと勝手に思っている。最終戦負けていたら、昇級を逃していたが、しっかりと勝ちきっているので、勝負強さは健在。ぜひ、B2ではのんびりせずに駆け上がって欲しいと思う。
西田六段は最終戦負けていたら順位の関係で頭ハネを受ける所だったが、強敵三枚堂七段を下しての昇級。こういう勝ち方をする棋士は強い。B2でまたじっくりとした戦いを見せて欲しい。
降級者
一方の降級者は畠山八段と中村九段。かつての中堅棋士がじりじりと落ちていく様を見るのは、辛いものがある。
C級2組
C級2組はアガレンジャー卒業で大いに盛り上がった。
昇級者
- 髙野 智史 六段
- 佐々木 大地 七段
- 黒沢 怜生 六段
昇級は高野六段、佐々木大地七段、黒沢六段の三人。
高野六段は10期、佐々木大地七段は9期、黒沢六段は11期。三人とも好成績を収めながらC2を昇級できないアガレンジャーという不名誉な名前を付けられていた。その三人が一気に昇級という事で、順位戦ウォッチャーは大いに盛り上がった。
残るアガレンジャーは、八代八段、梶浦七段ぐらいか。ホンケイととーるは諦めた(ひどい)。
この中ではやはり佐々木大地七段の昇級は嬉しい。ずっと昇級候補として名前が上がっては次点止まりというのが続いていたので、その中でくじけずに取り組んでくれていたのが嬉しい。来期のC1昇級者の筆頭候補だし、多分、蹴散らして上がってくれると思う。レーティング的に頭一つ抜けてるもんな。でも、同時に、ギリギリでC1を上がれないみたいな大地を見たい気がしないでもない。ひどい。
星野五段が最初七連勝していたが1敗を挟み、最終戦で負けて昇級できず。千載一遇のチャンスを逃してしまった。最終戦の対戦相手は編集長こと遠山六段。ここ最近の遠山六段は順位戦にアジャストしてきたのか、成績が上向きである。次節昇級する可能性があるかもしれない。
宮嶋四段も惜しかった。最終戦勝てば昇級だったが、上村五段が鋭い踏み込みを見せて、勝ちきった。上村五段はこの将棋に負けていたら降級だったが、ここで勝ち星を上げることで降級を回避した。今回の将棋を思いに留めて、また良い将棋を指して欲しい。
このような様々なミラクルがあり、今期のC2は降級者0という中々珍しい記録になった。
まとめ
第84期順位戦は、C2でのアガレンジャー卒業、藤本七段のレア記録、伊藤二冠の実力発揮、そして糸谷八段の挑戦と予想通りだったり、予想外だったり色々記憶に残る順位戦だったと思う。
前の記事の予想記事と読み比べると、大変味わいがある。