観る将さんは語りたい

すっかり観る将になってしまった、元指す将の将棋観戦記録です

藤井聡太八冠の誕生とこれからの将棋界が一番面白い

藤井聡太八冠誕生

【速報】将棋 王座戦 藤井七冠がタイトル奪取 史上初の八冠に

まずは、藤井聡太先生、八冠達成おめでとうございます。 文字通り、前人未到の地に到達した。思っていたよりも遅かったというのが正直な感想ではあるが、こんな偉業は今後見ることはそうそう出来ないと思う。

そして、敗れてしまった永瀬九段であるが、今回の王座戦を見るに、内容で言うならば三勝一敗。実質的には永瀬九段が防衛でもおかしくなった。 しかし、最後は指運が負けてしまった。そんな内容だった。 特に、第三局と第四局は、作戦勝ちで優勢を維持しながら、最後の最後で間違えての負けなので、ほぼ勝利を手に入れていたと言っても過言ではない。 少なくとも、研究勝負という点では完全に藤井聡太先生を上回っていた。それだけに、今回の失冠は、永瀬九段にとっては悔しくて仕方がない物だったと思う。

凡人が天才に挑む戦い

今回の勝負は最初から、凡人が天才に挑む戦いだった。永瀬九段は、どうしようもないくらい凡人だ。将棋のセンスに関しては欠片も無くて、努力だけで積み上げた物であり、凡人としての最高到達点に達している。 彼のその努力は並々ならぬ物であるし、それが全て無駄だとは言わない。むしろ、凡人が天才とここまで戦えるのかと可能性を魅せてくれた事に称賛を送りたい。

対する藤井聡太先生は、誰もが認める天才だ。手の一つ一つが強いが、とにかく終盤における形の見極めの早さ、読みの深さ、手の精度の高さ、そして選ばれるセンス、その全てが現代の最高レベルに達している。 天才ゆえの孤独とよく言われるが、現状は幸い(?)にして、コンピュータというさらなる”天才”が存在するお陰で、強い相手との勝負には事欠かない。

しかし、結局の所、外野である我々は血の通っていないコンピュータと人間との対局ではなく、血の通った人間同士の戦いにたまらなく惹かれてしまうのだ。 人間が指す手には血が通っていると表現されるが、要するに理性を超えた感性や感情がねじり込まれているという事だ。棋譜を並べる事で、その時の棋士の考えだけでなく、感情を読み取れるのが、人間対人間の戦いにしか無いもので、それを観る将たちは楽しんでいるのだ。

現代は、中継技術の発達により、実際に指している風景も観ることが出来るようになった。本当に凄い時代になった。少し古い時代だったら、この速報は新聞やラジオといった物で伝わっていた。ちょっと時代が進むとテレビで。そして今はインターネットを通じて、SNS を経由して、結果を簡単に手に入れられるようになった。

評価値を表示する事で、将棋が分からない素人でもどちらが勝っているかも、漠然と分かるようになった。 それでも尚、対戦している者たちにしか分からない勝負の揺らぎがあり、それが分かるのは、知識を積み上げた人たちの特権だと、僕は思っている。

先に書いたように、今回の王座戦、内容では永瀬九段の勝ちであり、諸手を挙げて八冠おめでとうと言えるような内容では無い。 それに関しては、対戦相手である藤井聡太先生が一番良くわかっていて、二番目に悔しがっているのは、もしかしたら藤井聡太先生その人なのかもしれない。

凡人が天才に挑む戦いは、今回は凡人が勝ったと言い切れる。 天才としのぎを削る事が出来るくらい、凡人も戦えるという事だ。

凡人の再起

永瀬九段が削ぎ落として来たものは多いと思う。そして、しばらくしたらまた何食わぬ顔で藤井八冠と VS を再開するだろう。 虎穴に入らずんば虎子を得ずの通り、勝つためには対戦相手の一番深いところまで潜る必要がある。 そして、それを臆すること無く出来るのは、現状、永瀬九段だけだろう。

藤井聡太八冠の牙城を崩す可能性が一番高いのは、永瀬九段だと感じさせるシリーズだった。 同時に、それ以外の棋士もメキメキと実力を付けているのも事実。 将棋界の全員が八冠誕生を喜びつつも、現状でいいとは誰もが思っていないはずだ。 今、将棋界の天才たちが称賛を送りつつも、懐の刃を研いでいるに違いない。

これからの将棋界

特に、若手の棋士藤井聡太先生を一人にしないために努力し研鑽している。 豊島九段も、今のままを良しとするような人ではない。羽生九段は、会長職をこなしつつも、勝負師としての顔が見え隠れしはじめている。唯一牙を研いでいないのは渡辺九段くらいか。

第一人者は、攻略方法が無いわけではない。かつての羽生先生や藤井猛先生が徹底的に研究され、攻略されたように、藤井聡太八冠も攻略対象として徹底的に研究されるだろう。 最後は地力勝負という形になれば、終盤が強い棋士たちが牙を剥くに違いない。 独創性の高さで未知の盤面へ導く序盤のアーティストたちの高等技術が見られるだろう。 そして、ねじり合いで僅かの差を決定的な差にしていく中盤の志士たちの戦いが間近に迫っている。

そう、将棋界はこれからが、”一番”面白い。