観る将さんは語りたい

すっかり観る将になってしまった、元指す将の将棋観戦記録です

第80期順位戦総括

第80期順位戦総括

昨日、第80期順位戦の全日程が終わった。 昨年同様に、総括を書きたい。

A級

A級は、昨年に続き斎藤慎太郎八段が名人挑戦に名乗りを上げた。 最終局を勝っていれば、全勝での挑戦になっただけに非常に惜しい。 順位戦で 2年連続挑戦者になるというのは、偉業であるが今年の名人挑戦で勝ちきれなかった場合、後ろから迫ってきている彼に名人位を奪われてしまう可能性が非常に高いので、今回の名人挑戦には並々ならぬ思い入れがあるに違いない。 どんな棋士でも一度は名人にという夢を持っているはずなので、今回の名人戦がどのような結果になるか非常に楽しみである。

B級1組

B級1組は藤井聡太五冠が10勝2敗という高成績を上げて昇級を決めた。 これに関してはほぼほぼ決まっていたので、ある意味想定通り。 対戦相手の佐々木勇気七段が7勝5敗という成績に終わってしまったのは、想定外だったが……。 来年の B1 はさらに魔境になるので、ここで佐々木勇気七段がどう戦うかは見ものである。

お次に昇級を決めたのは、稲葉八段。A級から降級後すぐに昇級したというのは流石と言える。 藤井聡太五冠に土を付けた棋士が昇級するのはある意味必然か。 順位の良さにも助けられた。

惜しくも次点になったのは千田翔太七段であり、本当に惜しかった。 あと1勝どこかで勝っていれば昇級できたが、勝負の世界は残酷。 それだけ、B級1組が魔界と化しているのだから、仕方がない。

これにくじけずに、また上を目指してあがいて欲しい。

降級する 3 人、木村九段、松尾八段、阿久津八段は本当に惜しいメンバーだと思う。 それだけ今のB1は実力が拮抗している状態だったとも言える。

松尾八段は、A級に行けそうで行けない、いわゆる B1 の門番的な立場だっただけに、今回の降級は辛かったと思う。

阿久津八段は最終局を勝てば残留だったので、負けてしまったのは勿体ない。 対戦相手である久保九段との地力差が出てしまった形だ。 どんな形であれ、タイトルを 1 度でも取っているか取っていないかで、その後の棋士人生の粘り方には差が出ると個人的に思っているのだが、それが如実に出た格好になる。 阿久津八段は、A級での連敗記録の多さに目が留まるが、A級の実力が無いわけでは無いので、再び奮起してB1に舞い戻ってきて欲しい。

B級2組

B級2組は激戦を制して、丸山九段が最後に昇級枠に滑り込む事となった。 さすがの羽生世代、耐久力が違いすぎる。 丸山九段が B級2組に落ちた時は、流石にもう衰えたかと思ったが、そんな事は全然なかった。 最終局も勝って昇級という事で文句なしの成績である。

降級する訳ではないが、最終局の藤井猛九段と深浦九段の戦いは鬼勝負で、負けたほうが降級点 1 が付くという形だったが、激戦を制したのは深浦九段。やはり、地球代表は深浦康市九段しか居ないと思わせるような内容だった。 仮に、将棋星人が攻めて来て、藤井五冠が負けたとしても、最後に深浦九段が防衛するというシナリオを容易に描くことが出来る。 粘り腰は棋界随一。 流石の一言に尽きる。 破れてしまった藤井猛九段であるが、今回の順位戦は内容が悪いものも、多く振り飛車苦闘時代に突入してしまった感がある。 まあ、いつの時代も振り飛車は苦労しているが……。 そんな振り飛車が苦しい時代でも、ずっと戦い続けてる藤井猛九段は、今後も諦めずに戦い続けてくれるに違いない。 今期は、中村太地七段に一発を入れているので、噛み合った時の強さは健在。 来期も再び頑張ってほしい。

C級1組

最終局は B級2組以上に混戦模様だったが、順位の影響で凄八こと、飯島八段が昇級を決めた。 B級2組から降級した時は、終わったと揶揄されていたが、凄八はそんな事なかった。 竜王戦でも好成績を残しており、上がる人が上がったという印象が強い。

今回の C級1組は三位枠が奪い合いで、七人が飯島八段に頭ハネを食らっている。 石井六段、片上七段、高橋道雄九段、坂口六段、門倉五段、黒田五段、出口五段とバラエティに富むメンバーが上位を固めた。 本当に誰が上がってもおかしくない順位戦であった。

高橋道雄九段が最終局勝っていれば、昇級だっただけに本当に惜しかったと言える。 対戦相手の先崎九段は羽生世代の中でもあまり目立った成績を残していない棋士だが、やはりその底力は健在。 今期は降級点がついてしまったが、調子を取り戻せばすぐに降級点を消すことが出来ると思う。 来期の活躍に期待だ。

C級2組

C級2組もまたドラマティックだった。 既に昇級を決めていた西田五段に加え、渡辺和史四段と伊藤匠四段が昇級した。 最終成績は全員9勝1敗という事で、誰もが納得の結果だった。

昇級争いをしていた、服部四段は本当に惜しかった。 とは言え、対戦相手は最近順位戦で好成績を残している編集長こと遠山六段。 負けてしまう可能性は十分にあった。

上がった三人の内、渡辺和史四段は苦労人。三段リーグで一勝しか出来なかった過去を持つが、それでもめげずに指し続けてこの結果は見事である。 佐々木勇気世代の一員であり、実力の高さは十分。 今回は順位戦で好成績をキープできたのは本当に素晴らしい結果だったと言える。

そして、前回の記事で書いたが、伊藤匠四段の昇級は予想していたものの、それを実現させるのは「持っている」なという感じがする。 藤井聡太五冠と同い年の棋士で、順位戦初参加で初昇級はやはりトップクラスの実力の持ち主であり、今期の勝率 1 位を狙えそうなのもまた素晴らしい。

同い年の棋士である高田明浩四段は今回五勝五敗だったが、藤井聡太五冠と近い年齢の棋士たちがこれからどんどん出てくるような気がしている。 羽生世代同様の事が起きたならば、「藤井世代」と呼ばれる層が形成されるかもしれない。

個人的には、その前に、佐々木勇気前後の佐々木勇気世代の層がべらぼうに分厚いので、仮に藤井世代が形成されたとしても、羽生世代の時のように突き抜けるのは難しいと考えている。 ただ、その中で伊藤匠四段は別格の一人だと思っている。 羽生世代における森内九段のように、藤井聡太五冠の終生のライバルになりうる棋士だからだ。 将棋の内容としては、藤井聡太五冠は理想を走るタイプなのに対し、伊藤匠四段は実利を求めるタイプ。 どちらが勝ちやすいかどうかは別として、全然別のタイプ同士なので、見ていて楽しい。

どこかで書くつもりではあるのだが、相掛かりにおける角頭歩において似たアプローチをしているのも興味深く、新世代感覚をお互いに身につけているのが強い。

閑話休題話を戻して

C級2組に有力者がとどまり続けてる現象は続いていて、

  • 梶浦宏孝七段
  • 阿部光瑠七段
  • 八代弥七段
  • 佐々木大地五段
  • 池永天志五段
  • 本田奎五段
  • 服部慎一郎四段

この辺は、そろそろC2にとどまらずに上がって欲しい気がしてしょうがない。 そもそも、C級2組の人数が多すぎる問題も抱えており、C2からの昇級は4枠とか5枠でも良いのではないかという気はしている。 来期の昇級候補は、佐々木大地五段、八代七段、服部四段を推しておく。 そろそろ上がっても文句は言われないでしょ……。

来期の見どころ

来期の見どころは、なんと言っても A 級初参戦の藤井聡太五冠がどこまで勝ち進めるかに注目が集まるだろう。 順位戦の勝率、0.942 (49-3)という異例とも言える記録を残しており、A級でもこの記録がどこまで伸びるかが注目される。

他には、C2から上がった伊藤匠四段(もう五段か)が、一期昇級が出来るのかとか、大橋六段が連続昇級出来るかどうかも注目されるに違いない。

将棋の記録としては、どうしても藤井聡太五冠の記録に注目が集まりがちだが、最近はどの棋士も良い記録や、良い将棋の内容を指しており、ベテランも新人も入り乱れる戦国時代に突入していると思っている。

このような乱戦状態になったのも、将棋AIの導入によるものが大きく、以前に序盤中盤で苦戦していた棋士が好成績を残すようになったのも、ここ数年の話だ。 これから、ますます将棋は難しくなっていくと思うが、観る将として、人間と人間の戦いに注目していきたい。