観る将さんは語りたい

すっかり観る将になってしまった、元指す将の将棋観戦記録です

村田システムから紐解く、令和の居飛車事情

村田システムから紐解く、令和の居飛車事情

先日、第 71 期王座戦の挑戦者決定トーナメントにて、村田顕弘六段と、藤井聡太七冠の対戦が行われた。 村田六段は、村田システムというシステムで戦うと宣言して戦いに臨み、最後の最後まで完璧に藤井七冠を追い詰めていたが、最後に毒饅頭*1を食べさられて、大逆転負けをしてしまった。

しかしながら、藤井七冠相手にほぼ完璧に近い優勢を維持していただけに、システムの優秀さは証明されと思う

村田システムの骨子

村田システムの紹介はこの記事が参考になると思う。 奇襲戦法が好きな人、あるいは将棋ウォーズで散々目にかけて嫌になってる人はすぐに嬉野流の形に近いなという印象を受けるだろう。

実際、嬉野流をさらに昇華させた戦法だと思う。 ポイントは、角道を中々開けないという所で、これにより居飛車三大戦法の

を全て拒否して、相掛かりに持ち込む事が出来る。 相掛かりは、ここ数年のトレンドだが、評価値ディストピアの影響もあり、他の戦法が指されにくくなってきたというのが実情だろう。

矢倉

矢倉に関しては、ぼちぼち指されているが、積極的に採用される事はほぼ無くなってきた。 羽生先生の名著、「変わりゆく現代将棋」において既に先手矢倉の危機に関してはかなり語られていて、数年後には後手急戦(僕は米長急戦の変形と見ている)によって、先手矢倉苦しいという状況に追い込まれた。

森下システム、脇システムなど色々な矢倉の戦法が出てきて、矢倉に組めれば先手有利という結論が出てからは、じゃあ、矢倉に組ませなきゃ良いじゃんという発想で、先手矢倉は組めないという状況になった。 したがって、先手版で積極的に矢倉を指す棋士は減っていった、というのが現状である。

角換わり

矢倉に代わってめちゃくちゃ指されていたのが、角換わり。今でも指されているが、後手側がどうも苦しいという結論に至りつつある。 今年のコンピュータ選手権でも角換わりがほぼ指されなくなったように、角換わりに関しては後手不利が濃厚になってきた。 もちろん、アマチュア同士の対戦ならば、まだまだどちらも同じくらいの差し回しになるが、トッププロや、それより上の世界では後手側を持って勝つのは相当辛いというのが実情のようだ。 したがって、後手番で角換わりを選択する棋士は今後も減っていくだろう。

一手損角換わりという亜種も、一時期流行っていたが、速攻棒銀で潰されるという結論が出てからは、ほぼ誰も指さなくなった。 羽生-丸山戦の記録が懐かしい。このブログでもその将棋について書いた事がある。

いずれにせよ、角換わりに関しては人気急下落中の将棋である。 後手番持って指す人はよっぽど研究しているのだろう。それくらい、後手番にとって辛い戦法になってしまった。

横歩取り

横歩取りは、横歩取り青野流の登場により、どうやら先手有利という結論が出つつある。 もちろん、それ以外の変化も色々あるので、まだ開拓しきっていない分野の将棋だと思うのだが、横歩取りも後手番にとっては辛い戦法になっているので、指す人があんまりいない戦法になってしまった

相掛かり

こうして、ついに居飛車党は相掛かりという開拓があまり進んでいない戦法を開拓するに至っている。 相掛かりブームは、馬車道駅定跡の時代を考えると、ブームが来ては去り、またブームが来て去るという波打ち際のような印象がある。 それほど、色々な手が試せる戦いなのだろう。塚田スペシャルとか、今の若い人は知らないかもしれない。 相掛かりは、数年前まで山ちゃんがドル箱戦法として使っていたが、最近はいろんな棋士が研究するようになってしまったので、そろそろ鉱脈として枯れている感はある。

この相掛かりの鉱脈を村田システムは掘り続けている感じだ。 実際、角道を開けなければ、矢倉も、角換わりも、横歩取りも、全部拒否することが出来る。 しかし、角道を全く開けない嬉野流と違って、後から開ける含みを残しているのが村田システムの違いで、よりプロ向きに精錬されたシステムである事が伺い知れる。 このシステムが流行るかどうかは、今後楽しみであるが、ある程度流行る気がする。 なにせ、藤井七冠相手にあそこまで有利を推し進める事が出来るのなら、トッププロがこぞって採用するに違いない。

最後に

平成時代の将棋と、令和時代の将棋を比べると、今の精錬度合いが桁違いで正直ゾッとするほどの難しさを感じている。 素人ではカバーしきれない範囲の定跡をプロは皆研究し、研鑽して、己の血肉としている。 一応、コンピュータを使うことで、素人でもプロ並みの知識をつけられるようになったが、それでもより深く潜るという点では、プロに一日の長がある。 練習量や勉強量でカバーするには、プロ同然の生活を送ればあるいは、という感じだ。

振り飛車は、現在不利飛車と呼ばれるほど、評価値的には厳しい立ち位置にいるが、居飛車の戦法も評価値的には色々と厳しい立ち位置にいる。 現在一番先後共にフラットなのは相掛かりだけというのは、なんとも凄い時代になってしまった。

どこかで読んだのだが、加藤一二三九段は、勝率 3 割だっとしてもその戦法を使い続けますと言い、実際に指し続け、先手矢倉における3七銀型を確立させた。 今後、生き残る戦法はそれくらいの信念を持って指し続けて、なおかつ勝ち続けない限り、残らないのでは無いだろうか。 村田システムも、もしかしたら勝率 3 割の戦法なのかもしれない。しかし、村田六段が指し続けるならば、戦法として生き残るだろう。

*1:駒が取れて一見有利に見えるけれど、その駒を取ると逆転するような駒、あるいは手の事。将棋用語。