観る将さんは語りたい

すっかり観る将になってしまった、元指す将の将棋観戦記録です

2022年における、直感について

直感について

将棋において、「直感」は様々な場面で出てくる要素である。 「長考に好手なし」という格言があるように、長く考えるよりも、直感で思いついた手が最善手だったという局面はよくある話しである。 では、その直感の正体とは何なのか。

直感の定義

言葉の定義で調べると、例えば

(直感)https://kotobank.jp/word/%E7%9B%B4%E6%84%9F-569497

説明や証明をまたないで、直ちに物事の真相を心で感じ取ること。直観。 推理・考察などによるのでなく、感覚によって物事をとらえること。「直感が働く」「将来結ばれる運命であることを直感した」

と定義されている。 論理的思考ではなく、心や感覚である回答を捉える能力の事を直感と言っている。 敢えて、ここでは「ある回答」という風に表現させてもらった。 直感で「正解」にたどり着かない事もあるからだ。 しかし、往々にしてプロ棋士は直感で正解にたどり着くことが多い。 それはなぜなのか。

いくつかの記事を読むと、プロの直感は、我々が感じる直感とは違うものである事が分かる。 例えば、

どうしてプロ棋士は直感力が優れているのか【子供たちは将棋から何を学ぶのか】

では、

繰り返しのトレーニングが直感を生み出す力を作る

と表現されている。 つまり、子どもの頃から地道に将棋の知識を積み上げていく事で、その局面における最適解を読まずに見つけることが出来るという能力だという訳だ。 これに関しては、プログラマである自分には非常によく分かる感覚だ。 問題解決のための手段を考える時に、直感的にこうすれば良いという答えが「降ってくる」事がある。 コード部分は思いつかなくても、こういうインプットとアウトプットにすれば解決するな、等と即座に判断出来たりする。 答えの方が、途上よりも先に出てくる。 そういう問題解決能力は「直感」と言っても過言ではないだろう。 プロ棋士の場合、それが盤面の解決に偏っているだけで、多くの人は多かれ少なかれ「直感」は持っているに違いない。 あとは、その人がその分野にどれだけ興味を持っているか、次第ではなかろうか。

直感に関する記事

ちなみに、直感をキーワードに調べていたら、面白い記事を見つけた。

将棋プロ棋士の脳から直感の謎を探る ←リンク先はPDFなので注意。

ここでは、直感=小脳が行う予測という過程が立てられている。 MRI等で、脳の動きを測定した所、アマチュアよりもプロの方が、小脳の活動領域が狭いという結果が出ている。 これは、熟練した脳が余計な思考をしなくなり、即座に結論にたどり着けるようになっているからだと推測されていた。 実際、筋は通っているし、納得感も高い。 「下手な考え休むに似たり」という格言が、この結果との一致を物語っている。

ただ、この記事は2008年の記事なので、14年前の記事。流石にいくつかの内容が古くなっている。 例えば、昨今のAI発達により、コンピュータが人間が指示した通りの情報処理が出来なくなるという表現は不正確になった。 Deep Learning手法が発達し、人間の指示を超える結果をコンピュータが導き出せるようになったのは、記憶に新しい。 コンピュータ将棋に関しては、2016年がターニングポイントになったと思う。 それまでは、人間とコンピュータはほぼ互角というイメージがあったが、この頃からコンピュータ圧勝というイメージが形成されている。 一番は、やはり三浦九段がコンピュータ相手に負けたのが決定打になったと思う。 その翌年には、AlphaZeroが登場し、以後Deep Learningを用いた学習がコンピュータ将棋の主戦場となっていくが、この辺は詳しい人にまかせておこう。

直感の正体に関しては、この記事も興味深い。

プロ棋士・羽生善治が語る“直感の正体”。将棋で「長考に好手なし」と言われる理由とは

羽生先生の直感力を紹介する記事だが、概ねこの記事で扱った内容に近いことが書かれている。 自分の主張も同様で、直感は後天的に鍛え上げた物であり、余計な思考を排除したものが「直感」という形で顕現しているというものだ。 故に、直感「力」は磨くことが出来るというのが自説であるが、大人になってからこれを磨くのはかなり大変だなというのが正直な感想。 自分が長く携わってきた事ならばともかく、新しい分野に関して直感力を磨くのは凄く難しいだろう。 観る将になってからは、将棋の直感力も大分落ちてしまったし、現代将棋の感覚にアジャスト出来ていない所はある。

余談

余談なのだが、最近角換わり腰掛銀の同型を見かけなくなったのが、富岡流の登場によりだと思ったのだが、どうもその後に出た、塚田流がさらにシンプルに仕掛ける事が出来て、後手難しいという結論に至ったという動画を見て、なるほどなー、となった。 先後同型は、後手不利という結論が出るまでにいろいろなドラマがあるが、そこに到達するまでにいろいろな定跡が生まれては消えたのかと考えると、プロの研鑽には頭が下がる思いであある。 ちなみに、塚田流が出るまでは、コンピュータ将棋の影響はほぼ無かったが、それ以降に出てきた形(△6二金・△8一飛型)が出てからは、コンピュータによりかなりの手数が研究されている。

先日の、藤井聡太-伊藤匠戦でもこの形が出て、後手の伊藤匠五段が凄い追い込みを掛けて藤井五冠を追い詰めていた。 それくらい、この戦型は研究されていて、「直感」ではどうにも戦えないというのが令和の将棋という感じがしている。

直感力があるには越したことがないのだが、プロの棋譜は、直感でどうこう出来るレベルではなくなっているのが現状で、平成時代の将棋すら甘く見えてしまうほど、令和将棋は苛烈になっているなと感じる。