観る将さんは語りたい

すっかり観る将になってしまった、元指す将の将棋観戦記録です

飯島流4二銀は、横歩取り青野流対策の決定打になるのか

横歩取り青野流対策

2020年9月現在、横歩取りにおける先手の作戦として青野流が優秀だ。

青野流
青野流

先手の▲5八玉が青野流の骨子で、以下、普通に進めると、こんな局面になる

青野流の狙い
青野流の狙い

やりたい事は明確で、横歩取りにおける主役と言っても過言ではない右桂を活用して、攻めて攻めて攻め倒すというものだ。 横歩取りの先手の作戦は今まで色々あったが、先手の得+1歩得を生かして先行寄せ切りを目指すというもので、懐かしい作戦だと、山崎流、新山崎流といった、作戦からも同じ考えを汲み取ることが出来る。

飯島流4二銀

横歩取り後手番は、8五飛戦法が出てから、後手が主導権を握る戦いが増えてきた。 先手も8五飛に手を焼きつつも、色々な作戦を繰り出し、ついに青野流という一つの到達点に達した。 これで横歩取りに対して結論が出たかに思えたが、やはり将棋には様々な可能性が眠っている。 それが、飯島流4二銀だ。

JT杯二回戦第三局、藤井-豊島戦で豊島竜王がこの飯島流を採用し、注目を浴びた。

飯島流4二銀
飯島流4二銀

△2二銀に変えて、△4二銀と指し、先手がそれでも青野流を目指すならば、4一玉から、2二歩という徹底抗戦を築くことで青野流が目指す速攻を封じるというものだ。 この2二歩がポイントで、JT杯で見た時に感動した。

というのも、2二の地点ががら空きだと、先手からの2二歩が厳しくなるのだが、そこを先に埋めておくことで先手の攻めを空振りさせる事が出来ている。 これが2二銀型だと4五桂と飛ばれた時に中央が薄くて戦いにくかったのだが、それを4二銀でカバーしている。 この形に組まれると先手からの良い攻めが無いのである。 コロンブスの卵的な発想だが、こうなると先手の青野流の方がやや指しすぎになっているのが分かる。 将棋というゲームの奥深さを感じる。

JT杯の結果は、この飯島流を採用した豊島竜王の勝利。 途中で先手の藤井二冠が受け間違えたので、豊島竜王も薄氷の勝利であったが、将棋の内容として後手が上手く立ち回ったという内容になっている。 先述したように、「△2二歩」という控えて打つ歩、通称「土下座の歩」は、横歩取りではあまり見ない手なのだが、この局面に限っては成立している稀有な形なので、今後青野流を狙われた際には、積極的にこの形を狙っていきたい。

先手の速攻を抑え込めたら、後手は安心と信頼の中原囲い+歩、桂、飛の軽い形で捌き合えば先手とも十二分以上に戦うことが出来る。

将棋の形はじゃんけんゲームに近くなってきた

ここから先は余談になるが、最近の将棋の戦法、というより様々な形はじゃんけんゲームの様相になってきている。 角換わりにおける、棒銀、早繰り銀、腰掛銀の相性関係同様、先手の様々な形vs後手の様々な形の対抗形だ。 その差はたったの1手か2手程度。

しかし、その差で局面の風景がまるっきり変わってしまっているのが現代将棋と言える。 観る将的にはトッププロの戦法に注目しがちだが、現代将棋の礎は様々な棋士の積み重ねによって出来ている。 全てを観るのは不可能としても、全体的なトレンドを忘れずに抑えておきたいと思う。